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2023年08月18日

頼るチカラとフリーライダー

頼るチカラとフリーライダー


 ダニング=クルーガー効果という言葉を聞いたことはありますでしょうか。

 この言葉は、1990年に米国コーネル大学のDavid DunningとJustin Krugerにより提唱された考え方で、自分自身に対しての認識が不足していることで、「自分の能力を実際よりも過大評価してしまうこと」による様々な影響についてに関するものです。

 自己認識に対する不足は、「優越の錯覚」と呼ばれることもあり、自分の能力を正しく認識できないことによって、自身の欠点に対して向き合えなくなり、自身が優秀であるという錯覚を起こしてしまうとされ、このような「優越の錯覚」に関する認知バイアスは、古くから多くの研究がなされているようです。

 自己認識がうまくなされていないことによる影響として、自己評価と実際の能力との乖離があるのにもかかわらず、周りからの指摘やアドバイスを素直に受け取れないことが多くなってしまいます。
さらに、自身と周りとの評価のズレを受け入れられない事などの原因により、結果的に周りとのコミュニケーションに支障が出てきてしまうことです。

 このダニング=クルーガー効果によって引き起こされてしまう様々なリスクについて考えてみますと・・・

 まず初めに、「自身を過大評価」してしまうことについて考えてみましょう。例えば、新しい環境や習慣に慣れることを、能力の向上と錯覚してしまうケースなどもこれにあたります。実際に能力が向上したわけではないので、取り組みに対する真摯さが損なわれていく傾向があります。

 次に、「 知識不足に陥ってしまう・・・」ことです。これは、自己の過大評価にもつながることになりますが、能力が低い者ほど、本質を捉える力や物事を判断するにあたっての知識の総量が足りないにも関わらず、「自身の知識は充分である・・・」と錯覚し、知識をこれ以上増やす必要を感じなくなってしまう傾向があるようです。
 その一方で、能力のある人ほど、「周囲が自身と同等の知識を持っている・・・」という考えのもと、知識不足を認識する中でより多くの知識を求めようとする傾向が強いとされています。

 更なるリスクについては、「他者を適切に評価できなくなってしまう」ことです。そもそも、自己評価は、周囲からの反応や他者からの評価に大きな影響を受けています。そのために、自己評価にズレが大きい人は、周囲や他者に対する評価も誤ってしまう可能性が大きいと考えなければいけません。
 業務であれば、自身の上長がダニング=クルーガー効果に陥っている場合、部下である自分に対する評価は、不当に低いか、根拠なく高い可能性もあると考える必要があります。

 その他のリスクとしては、「困難への対処が出来なくなる・・・」ことだとされています。

 「根拠のない自信」は、困難や壁にも前向きに挑戦するモチベーションになりますが、自己認識と直面した現実の壁とのギャップが大きい場合に適応できなくなる傾向も強くなります。そのため、困難や壁に直面したときの逃避行動につながる傾向が強いために、「本来の役割とは違うところに口を挟んだりしてしまう・・・」ことも認識しておく必要があります。

 最後に、既存の業務に対する負担やリスクのある業務を回避し、現状維持を優先してしまうケースです。

 業務であれば、自身の業務はもちろん、部下の提案に対しても何らかの理由をつけて否定し、可能な限り責任を負わないように立ちまわってしまったり、組織の成長を阻む存在になることで、チームに対しても大きな影響を及ぼしてしまいます。

 これらのような傾向が強い方は、「十分な仕事をせずに報酬を受け取っている・・・」や、「他者の手柄を自分のものにしてしまう・・・」ようなフリーライダーという存在になってしまいます。

 フリーライダーのチーム内での存在についても、「生産性の低下」「チームワークの乱れ」「優秀なチームメンバーの離反」など様々なリスクにつながっていくとされています。

 この「フリーライド」と「頼る」という二つの言葉に同義性を感じる方もいるのかもしれませんが、「頼られる」ことで感じる貢献感などを考えれば、全く違う意味を持つと考える必要があります。

 ここまでの、説明を聞けば、自己認識の甘さが本人のみならず、周りの多くの人に対して、ネガティブな影響を与えてしまうことは理解できると思いますし、「正確な自己認識なんて、誰が出来るの・・・?」という現実があることを考えれば、このダニング=クルーガー効果そのものは、誰もが陥ってしまう状況であるということも認識しておかなければなりません。

 ダニング=クルーガー効果に陥ってしまう主な要因として、「フィードバック不足」、「他責思考」、「自己評価の誤り」とされています。その中でも、自己に対するフィードバックを受け入れるには、それなりの勇気が必要であることも現実としてありますので、他者からのフィードバックに対して反発することで、他責思考や自己評価の誤りにつながるケースも少なくありません。

 そのためにも、フィードバックを受け入れやすい環境に身を置くことです。

 その一つとしては、多くの人たちの出会いやつながりを大切にすることです。家庭や職場などの環境は、既存のヒエラルキーの構造が出来上がっていることが多く、自分の意見が通り易い環境であったり、固定化された人間関係の中では新しい発見や、自分自身を見直す機会が失われやすくなります。
 特に、年齢や性別、立場にとらわれず、自分に都合の悪いことまで、真摯な姿勢で伝えてくれるような人との出会いやつながりを大切にし、積極的に他者の意見に耳を傾けることが重要です。

 また、自分自身のパフォーマンスを客観視するために、可視化することも有効な手段の一つになります。可視化の手法の一つとして、数値化できることについては、数値化することで客観的な視点を持つことが出来ます。ただし、数値化することで目的と手段が混乱しないよう注意をすることも同時に必要です。

 「自分が見えていない・・・」ことによって、人間関係に及ぼす影響は思っている以上に大きいとともに、周りに対しての態度が見えていないことも含め、「悪気が無いのが、一番悪い・・・」とか「歪んだ正義」というようにも見えてしまうこともあります。

「頼る」ということは、自分で完結させることなく他者と積極的に関わることを意味します。だからこそ、「この人の役に立ちたい・・・」という関係性がないままに、頼るという行為をすれば、頼った相手にとってはフリーライダーに映ってしまうのかもしれません。







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Posted by toyohiko at 13:25│Comments(0)社会を考える
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