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2024年04月05日

睡眠とアルコールの関係をあらためて考える

睡眠とアルコールの関係をあらためて考える


 睡眠の悩みに対して、世界の先進国、新興国10カ国の「眠れないときにどうするか」について、「医師を受診」「カフェインを控える」「アルコールを飲む」「睡眠薬」の4つの選択による調査を行った結果、中国と日本以外は「医師に相談する」がトップなのに対して、日本のみが圧倒的に「アルコールを飲む」という回答が多いという結果になったそうです。

 「医師を受診」がトップでなかった中国においても、睡眠薬とカフェインを控えるの二つが多く、「アルコールを飲む」という選択は、日本以外の全ての国で一番少ないという結果になっています。

 この日本特有の睡眠不足に対する選択は、教育水準の高さに反して、日本人の睡眠軽視、寝不足自慢、酒に対する寛容さ、という文化的要素が大きいことと同時に、「眠れない・・・」という状況に対して、アルコールという発想が一番に来るということからすれば、睡眠とアルコールとの関係についての認識が他の国と根本的に異なるという可能性も考えなければならないかもしれません。

 前回も説明しましたように、摂取したアルコールが分解される過程で生成されるアセトアルデヒドが交感神経を刺激するために、身体が覚醒の方向に向かってしまい、「身体は休んでいても、脳は活発に動いている状態」になり、眠りが浅くなってしまうということだけでなく、覚醒後の影響も近年の研究では明らかになりつつあります

 その大きなキーワードとなるのが「不安」です。

 多くの人がお酒を飲む理由として言われているのが、社会的な不安を鎮めることに大きく関係している考えられています。

 これは、アルコールが、神経伝達物質であるGABA(γ-アミノ酪酸)の働きに干渉することが知られており、アルコールが普段はGABAが結合する脳内のタンパク質(受容体)と結びつくことによって、中枢神経系の鎮静や睡眠、リラクゼーションにつながるために、「これが、飲酒をしたときに人々がリラックスしたり、抑制から解放されたり、とめどなく湧いてくる(ネガティブな)思考が減ったりする理由です」と、米エール大学医学部教授で、エール・ニューヘイブン病院依存症回復クリニック所長のスティーブン・ホルト氏が述べています。

 そして、アルコールによってGABAの作用が強められる一方で、体内で自然に作られるGABAの量は減り始めてしまいます。そして、GABAが作られる量が通常のレベルに戻る前にアルコールが抜けてしまうと、、以前に抱いていた「不安」が強度を増してよみがえってくることがあるというのです。

 また、英インペリアル・カレッジ・ロンドンの神経精神薬理学者デビッド・ナット氏は、「どんな酒であれ、飲んだ人の大半は、アルコールが抜ける際、脳に変調をきたします。少量の飲酒であれば混乱を覚える程度ですが、量が多い場合は不安が起こることがあります」とも述べています。

 さらに、興奮性の神経伝達物質のグルタミン酸も、不安を高める働きがあるとされていますが、アルコールによって抑制性のGABAの作用が強められると、脳内のグルタミン酸による神経伝達の影響が弱まります。これを埋め合わせるために、脳は追加でグルタミン酸受容体を徐々に増やすようになるために不安が高まるというのです。

 二日酔いの症状として不安が現れる人は、慢性的に不安が続く「全般性不安障害」を抱えている可能性があるとされています。また、米ペンシルベニア大学精神科依存症治療センター長のエドウィン・キム氏によると、飲酒後の不安は、過剰な心配というよりもイラつきとして感じられる人もいるとしています。

 そして、症状を軽くしようとして自己判断で飲酒すると、不安は覆い隠されるものの、アルコールが体から抜けると根底にある不安が強くなるという悪循環にもつながり、メンタルヘルスの不調につながる可能性もあります。

 日本では、「寝酒」や「晩酌」という言葉が一般的になっています。そのような飲酒を楽しみにすることを肯定的にとらえるかたも多いかもしれませんが、アルコールによる睡眠への影響をのみならず、「不安」というメンタルヘルスへの悪影響にもつながる可能性があるということを理解したうえで上手な付き合い方をしていくことが大切です。







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Posted by toyohiko at 17:11│Comments(0)身体のしくみ
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