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2022年06月17日

シンバイオティクス療法と重症感染症

シンバイオティクス療法と重症感染症


 シンバイオティクスという言葉は、身体にとって有用な微生物であるプロバイオティクスとその有用な菌の増殖を促進するための成分であるプレバイオティクスの両者を合わせて利用することを意味する言葉です。

 このシンバイオティクスの考え方をもとに、感染症予防への活用が医療の世界でも進みつつありますので、ご紹介させていただきます。

 感染症対策と言いましても、健常時の消化器系感染症や上気道感染症でなく、周術期と言われる術前及び術後を含んだ外科手術による身体の負荷が大きくかかった状態や、救急救命、がんの化学療法などのケースでの感染症のリスクについての事例になります、

 食道がん切除、高齢消化器手術、大腸がん切除などの消化器系の外科手術では、術後の感染性合併症のリスクに対しては、試行錯誤の上、様々な対応がなされてきました。

 特に胆道がんは、手術そのものの難易度が高く、規模も大きいために手術時間が長く、患者自身の身体に大きな負担がかかります。
 そのために、術後の腸内には大腸菌群や緑膿菌、カンジダなどの感染症の原因菌の異常繁殖が見られるケースが少なくありません。

 そのような中、シンバイオティクス投与による腸内環境の改善からのアプローチによって、非投与群の術後の感染症合併症発症率が、52%に対して、投与群では19%と大きく改善されたという報告もあります。

 このような周術期の患者の場合には、手術によって消化器官そのものが物理的に外部にさらされるという事もあり、高度な侵襲によって腸管のバリア機能が破綻することで、腸内細菌が体内に移行してしまうバクテリアルトランスロケーションといわれる状況が引き起こされてしまうといわれています。

 このバクテリアルトランスロケーションは、感染性合併症に大きく関わっていることはわかっていますが、シンバイオティクスの利用によって、腸内細菌叢及び腸内環境の改善がなされることで、感染症発生に関わる細菌類の増殖抑制と腸管のバリア機能の維持がなされ、バクテリアルトランスロケーションが抑制されるという事も確認されてきました。

 また、周術期のケースだけでなく救急救命のケースでも処置中に起きてしまう全身性炎症反応症候群(SIRS)などの感染リスクが救命率に関わる重要な問題になります。
 さらに、処置後に集中治療室内での数週間にわたる治療でも多くの患者が人工呼吸器を装着することで肺炎を引き起こし易いことが知られています。

 この肺炎は、下気道部の緑膿菌の感染が原因として考えられていますが、周術期のケースと同じようにシンバイオティクス投与によって、腸内の有用菌と有機酸のレベルを回復させることで重症救急のケースでは人工呼吸器関連肺炎の発症日数の短縮や集中治療室での滞在日数が少なくなったという報告もあります。

 がんの化学療法による副作用には、重篤な骨髄機能の抑制、粘膜障害、感性症、下痢、発熱などの様々な症状が見られます。

 進行食道がんの術前化学療法を受ける61名の患者を対象に、シンバイオティクス投与群と非投与群との二つのグループの比較研究では、発熱性好中球減少症と呼ばれる、化学療法によって好中球が減少し発熱、重篤な下痢、さらには重大な感染症につながる症状が軽減されたという報告が、ヨーロッパの臨床栄養学会の運営する学術誌でも紹介されています。

 シンバイオティクスという見慣れない言葉かもしれませんが、このような考え方の食品は探してみれば身の回りに意外にあるものです。
プロバイオティクスとプレバイオティクスを併せることで、様々な治療の現場で利用されつつあることを考えれば、予防医学の考え方のもと、日頃の食習慣の中に取り入れてみることもお勧めします。






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この記事へのコメント
ご丁寧な返信…そして、情報提供ありがとうございます!

プロバイオティクスやプレバイオティクスを利用した、腸内細菌の活用などの医学的アプローチについては、なかなか、認知度が低いのが現状で… 研究者も最近でこそ、評価されるようになってきたものの、変人扱いされている…という話を直接お聞きしたこともあります。

確かに、従来の治療医学的考え方からすれば理解できないことや…、未知の知見が多いことも事実です。

これからも、色々と情報提供していきたいと思っていますので宜しくお願い致します。
Posted by toyohikotoyohiko at 2022年10月03日 17:08
 toyohikotoyohikoさん、返信ありがとうございます。
 返信にもある「術後の身体の負担に対して感染症のリスクを軽減するために腸内環境を整えることについての効果に対するエビデンスを紹介させていただきました」という点が気になり、投稿しました。
 このクニの医療機関では、なぜか手術後は、化学療法等の内科的治療であっても、外科医が担当します。
 私の場合も、転移を半年も見落とし、挙句の果てに、それを誤魔化すための出鱈目の説明。
 外科医は当ていならないから、特許公報等からがんのメカニズムを把握し、治療計画の青写真をこしらえ、外科医に提案したとき、多くの外科医は手術以外の医療知識はないに等しいことを実感しました。
 腸内環境を整えて感染症のリスクを軽減するなんてことまで、多くの外科医は頭が回らないでしょう。
 とにかく悪くなったら切るっていうのが、多くの外科医の性ですから。
 せっかくの有用な情報ですから、外科医は当てにならないから、自分で積極的に提案しなければという主旨の話があると、いいと思いました。
 それと、化学療法の副作用についての対処については、私もブログに投稿しております。
 下記を参照してください。
https://tokosabu.dosugoi.net/e1245497.html
https://tokosabu.dosugoi.net/e1245250.html
https://tokosabu.dosugoi.net/e1244449.html
Posted by 柴田晴廣柴田晴廣 at 2022年10月03日 10:52
コメントありがとうございます。

回復されたとのこと・・・
よかったです。

ガンのみならず、あらゆる疾病は
個々の身体がそれぞれ異なっているように、病気とのつきあい方も違う・・・ということはあるような気がします。

柴田さまが、コメントをいただいた記事は、術語の身体の負担に対して感染症のリスクを軽減するために腸内環境を整えることについての効果に対するエビデンスを紹介させていただきました。

今後の、ご健康を祈念申し上げます。
Posted by toyohikotoyohiko at 2022年10月03日 08:44
 初めまして。
 大腸がんステージ4と診断され、5年余りが経過しました。
 ステージ4と診断した現在豊川市民病院の副院長は、治療を受けても30ヶ月といわれましたが(笑)
 6月には、再度再発し、だいぶ危なかったが、なんとな回復しました。
 がんは患者の知識で運命が左右されますね。
Posted by 柴田晴廣柴田晴廣 at 2022年10月02日 15:28
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