2023年12月15日
乳糖不耐症とビフィズス菌
「牛乳などの乳製品を食べたり飲んだりすると、どうもお腹の調子が・・・」というかたも多いのではないでしょうか、この症状は乳糖不耐症と云われ、小腸から分泌されるラクターゼという消化酵素が不足しているために、乳糖を分解することができず、乳製品を摂取すると下痢等の症状を起こすもので、日本人には多いと言われています。
乳糖不耐症の症状に悩まされている方については、ラクターゼが分泌されない遺伝子型を持っているとされています。
よって、牛乳などを飲んで乳糖が小腸に入ってくると、小腸で消化吸収されることなく乳糖がそのまま大腸に到達することになります。
その結果、大腸内に乳糖がたくさんたまるので、乳糖を好むビフィズス菌の仲間が増えていくのです。
その一方で、 ラクターゼが分泌される遺伝子型を持つ割合が多いといわれるヨーロッパ系の人たちは、乳糖が小腸で分解吸収され、大腸には乳糖が届きません。必然的に、ビフィズス菌のエサが減り、他の菌が増えてしまうというような違いがでてくるというわけです。
近年、ラクターゼを産生する遺伝子 「ラクトース」 の遺伝子型を見ると、腸内のビフィズス菌量を予測できるというような知見が、 複数の国や研究グループで報告されていますがこのようなメカニズムが関係しているとされています。
アリゾナ州立大学の鈴木太一助教によりますと、乳糖不耐症の遺伝子型に関するような場合は、ヒトと菌が糖を巡って取り合いをしているような競争関係にあることで、ヒトの遺伝子型と菌量の関係が維持されているという共進化の事例と言えると説明しています。
このように「取り合い・・・」という関係に対して、協力関係の事例もあるようです。
唾液に含まれるアミラーゼという消化酵素がありますが、このアミラーゼは唾液アミラーゼ遺伝子によってつくられますので、この酵素が多ければ多いほど、唾液による炭水化物の分解が進みます。
従って、アミラーゼの分泌が多い人ほど、 唾液では分解されない複雑な糖が大腸に届き、 アミラーゼの分泌が少ない人ほど複雑な糖だけでなく単純な糖も大腸に到達することになりますので、アミラーゼの分泌が多い人ほど複雑な糖を好むルミノコッカス属の菌が増えていくというような関係性ができあがってきます。
そのために、アミラーゼ遺伝子型を確認することで、ルミノコッカスの量を推測できることが分かるということにもつながるのです。
人間の生活は、狩猟採集から農業や畜産へと発達し、乳糖や炭水化物からエネルギーを得ることがヒトの生存にとって重要な存在になったことは、既に多くの人がご存知の事と思います。
今回紹介したような、乳糖不耐症とビフィズス菌との関係や、唾液とルミノコッカスとの関係のように、様々な環境の変化に対応するサイクルの早い、体内の腸内細菌をはじめとする共生微生物の変化が、ひょっとするとヒトの遺伝子の変化につながり、ヒトの進化に貢献しているというような、「ニワトリと卵」の関係なのかもしれないとおもうと、目に見えない共生微生物をもっと注目する必要がありそうです。
Posted by toyohiko at 16:32│Comments(0)
│身体のしくみ