2025年03月28日
社会的孤独と健康の関係について考える

家族や地域とのつながりがほとんどない状態を「社会的孤独」と呼んでおり、社会の変化に伴い、単身世帯の増加は加速し、近年増加傾向にある社会課題の一つです。
このような社会的孤立状態が長く続くことで、生きがいの喪失、生活不安、情報弱者に陥ることによる消費者被害、高齢者による犯罪、ゴミ屋敷、孤立死などの高齢者についての課題のみならず、地縁・血縁・社縁による関係性の希薄化によって、ひきこもりや不登校、虐待、自殺者の増加など様々な社会課題と関係しているとされています。
このような社会課題が叫ばれている中、厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所の世帯数の将来推計では、2050年には全世帯に占める単身世帯の割合が44.3%となるという報告もあり、単身世帯化については高齢化による課題という事のみならず、実態としては、若年層の未婚者の多くが単身世帯であり、過去の調査では、全体の6割が20代に集中しているというような報告もあります。
そのような中、社会的孤独がもたらす新たな健康リスクに関する知見が、慶應義塾大学医学部などの研究グループによって報告されましたのでご紹介させていただきます。
近年、社会的孤独によって脂質代謝異常や動脈硬化を原因とする虚血性心血管疾患のリスクについての知見はあるものの、そのメカニズムについては未解明とされてきました。
しかしながら、研究チームの報告によれば、社会的孤独と動脈硬化との関係は脳のストレスへの反応経路とされている要因ではなく、脳視床下部からのオキシトシン分泌が減少するとともに、肝臓における脂質代謝異常から動脈硬化を促進させることによって引き起こされるという事が、マウスによる実験で明らかになったというのです。
オキシトシンには、抗ストレス作用や摂食抑制作用があると言われており、 出産や授乳、 子育て、 他者との関わりなど社会行動にも関係していることから幸福ホルモンのひとつと言われています。
そのようななか、今回のマウスを用いた実験では、オキシトシンが肝臓における脂質代謝を制御していることが世界で初めてわかったという事なのです。
かつてアリストテレスが、「人間は社会的動物である」と述べたように、人は一人では生きていけず、お互いに関わり合うことで健康を維持できるという事は、社会的な概念ではなく、ホルモンの影響という人体のメカニズムのひとつとして他者との関わりが不可欠であるという事が証明されたという理解も出来ると思います。
健康については、WHOの保健憲章の前文で、Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity. (健康とは、完全に、身体、精神、及び社会的に安寧な状態であることを意味し、単に病気でないとか、虚弱でないということではない。) というように、三つの要素によって支えられていると定義づけられています。
今回の報告は、健康の要素に関する3つ目の「社会的な安寧(social well-being)」に関して、私たち自身のこととしてもっと向き合う必要があるのかもしれないという大きな問題提起なのかもしれません。
2025年03月22日
日和見菌ってどんな菌? 日和見性感染症を考える

近年、腸内細菌の話題も多くなってきましたが、その中で善玉菌とか悪玉菌という言葉を耳にしたことがあるかと思います。このような呼び方に対して「情緒的」という形容をする専門家もいるようですが、いまや一般的な呼び方として通じるほどになってきているのが現状です。
お腹の中に居るとされる腸内細菌は約数100兆個にも上るとされていますが、この数100兆個の内訳は、ヒトに対して良い働きをすると言われる善玉菌と、悪い働きをするとされる悪玉菌のいずれか・・・ということではなく、「どっちつかず・・・」というか、「周りの状況を見渡しながら、優勢なほうに着く・・・」というような、日和見性をもった腸内細菌の割合が最も多く、健常な状態で2:7:1と、善玉菌が2割、悪玉菌が1割に対してお腹の中の殆どを占めているとされています。
この日和見性という性質を持つ中間的な菌は、善玉菌や悪玉菌に属さない腸内細菌です。腸内環境の状態によって、有害な働きをしたり、無害であったり、有益な働きをする菌と言われており、悪玉菌が優勢の腸内環境の場合、この中間的な菌が悪玉菌の味方をしたり、悪玉菌と同じ働きをするため、腸内環境が悪化し、体に害を与える可能性が上がるなど、腸内フローラのバランスによってその働きが変化するという性質があるとされています。
その性質をよく表しているのが、「日和見性感染症」です。
日和見性感染症とは、「正常の宿主に対しては病原性を発揮しない病原体が、宿主の抵抗力が弱っているときに病原性を発揮して起こる感染症」のことで、その病原微生物として、常在性のサイトメガロウイルス、 緑膿菌、カンジタ菌などが知られています。
術後感染症でよく知られる緑膿菌についても、東京農業大学生命科学部分子微生物学科の野本康二客員教授によれば、緑膿菌は通常、健常な人の腸内からは検出されないのですが、高齢者医療施設で実施した入院患者の腸内細菌解析の結果では、生息レベルは低いものの、結構な頻度で検出されているという報告もあるようです。
さらに、この緑膿菌のリスクは薬剤に対する耐性が高く、多剤耐性の緑膿菌の存在の多さとも言われています。そもそも、病原性の感染症は、口や傷口などから入り込む外来性の微生物ばかりをイメージする方も多いのかもしれませんが、常在性の腸内細菌が腸管壁を突破して体内に侵襲する、バクテリアルトランスロケーションも感染症発症の大きなリスクの一つとして考える必要があります。
そもそも、腸内環境が健全な状態では、コロナイゼーションレジスタンス機構と呼ばれる腸内細菌が病原細菌の定着や侵入を妨げる機能が備わっています。
また、リーキーガットと言われる、腸管壁を介する異物侵入を管上皮細胞の産生する粘液層や腸管上皮細胞間の紐胞間接着装置によって阻止しています。さらに、腸管に配置されている免疫システムにより、侵襲した微生物が排除される、という複合的な生体防御機構が働いています。
このような、腸管が本来持っている、3つの防御システムに不具合が起きてしまうことで、日和見性感染症のリスクも大幅に上がってしまうということを理解しておく必要があります。
菌ではありませんが、帯状疱疹の原因となるとされていますヘルペスウイルスも、健常な状態であれば、ほとんど問題ないのですが体調の変化により、免疫レベルの低下などの原因によって発症することが知られている症状の一つです。
人間も動物である以上、気温や気圧などの環境の変化によるストレスを一番受けやすいのが現実です。三寒四温と言われるこの季節だからこそ、全体の7割を占める中間的な菌の日和見性を理解したうえで、いかに味方につけるかを考えることも予防医学の実践につながるのかもしれません。
2025年03月13日
プライベートライフの充実について考える

ワークライフバランスという言葉を当たり前のように耳にする一方で、そのバランスの状況については、様々な現実があります。
当然、それぞれの「大切にしたいこと…」が、ありますので、その大切にしたいことにかける時間や熱量もそれぞれ異なるのは当たり前です。
しかしながら、自身の生きてきた社会的背景を他の人に対して押し付けるような、行為や態度となるとこれは別の話になります。
「ワーク」ということで考えれば、「仕事のために生活をしているのではなく、生活のために仕事がある」ということについても、冷静に立ち止まって考えれば、当たり前と思う方も多いのかと思いますが、現実にはその二つの関係がつながらなくなってしまう方も多いのではないでしょうか。
生きるためには働く必要がありますが、友人や家族、パートナーとの時間も仕事と同じくらい重要です。 人間関係には、仕事上の対人関係、交友関係、家族やパートナーとの関係の三つの関係があるとされていますが、この三つのどれか一つだけにエネルギーや時間を注ぐのは望ましくないと言われています。
実際、友人や家族と過ごす時間を犠牲にしてまで働くことを良しとする人は少ないでしょうが、友人や家族と過ごす時間は減らせると考え、家族からの批判を承知で仕事を優先するという人もいるでしょう。
この三つを両立させるのには、どうすればいいのでしょうか。
「家族のために仕方なく働いているのだ」と考える人もいるでしょうが、そのような人は、仕事の時間を減らそうとすることのストレスと家族や友人との時間を天秤にかけた上で、仕事が忙しいことを友人や家族を大切にしない理由にしているとも考えることが出来ます。
しかしながら、仕事の時間は調整可能です。 それができないと思うのは、一生懸命仕事をすることで「これだけ頑張ったのだから、たとえ結果を出せなくても仕方がない」と自分を納得させたいからということも言えます。
また、始める前から、ネガティブなことを言ったりするのも失敗に対する不安を解消するための保険そのものなので、これも同じ心理状態と言えます。
ワークライフバランスを考えた時に、大切なことはプライベートライフになります。そのためにも、一日の中で少しでも「プライベートな時間」を意識的に確保することが重要なのです。
そもそも、 プライベート (private) という言葉の語源はラテン語の「privare」からだとされていますが、「奪う」という意味があります。
言い換えれば、 プライベートな時間は「奪い取る」必要があるのです。ただし、「仕事の時間を減らして、友人や家族との時間に「充てる」という意味ではありません。「自分のための時間」は、仕事の時間、友人や家族との時間から「奪う」のではなく、時間の「質」を変えることで「作り出す」ことが必要なのです。
ワークライフバランスとは、仕事や交友関係、家族との付き合いにおいて時間とエネルギーのバランスを取ることを意味します。 しかし、それぞれを「ほどほど」にするのでは充実したプライベートライフにはつながりません。だからこそ、仕事中は仕事に集中し、遊ぶ時は仕事を忘れる。その「切替え」が重要なのです。
例えば、「今晩、子どもの誕生日だから、家族と一緒に会食の予定がある・・・。」というような時は、前もって計画的に仕事を整理し、時間通りに終わるように段取りをするし、場合によっては、周りの仲間にも理解や協力をしてもらうようにするのではないでしょうか。
大切な人や家族との時間を大切にしたいからこそ、スケジューリングを重要視する必要があるし、頼り…頼られる関係性としてのチームワークが必要となってくるのです。
その一方で、単身赴任の上司が、子育て中や介護がある部下に対して頻繁に食事に誘うということがあるとします。このような状況は、「私は、大切にしたい相手は居ないから…関係ない」という人が、一定の権威をもって他者のプライベートに介入すると感じる場面もあるかもしれません。
その結果チームワークはバラバラになり、チームとしてのまとまりは愚か、結果を出せないチームになってしまうのではないでしょうか。
もちろん、子育てや介護というような時期だからこそ息抜きしたいということもありますので一概には言えませんが、その息抜きをしたい相手としてふさわしいかは、普段の関係性によりますし、もし、仮に大切にしたい相手が居なくても…そういう想いを大切にしている人が居ることを認め、自身も未だ気付いていない存在に気づくキッカケにすれば良いだけなのです。
ワークライフバランスの3つのアプローチにつながる動機としてのプライベートライフはもっとも大切にしないといけないもののひとつなのかもしれません。
2025年03月07日
腸内細菌叢とメンタルヘルス「パーキンソン病に関する研究事例」

メンタルヘルスと腸内細菌叢との関係については、脳腸相関に関する研究事例の多さとともに関心が高まりつつあります。
また、様々な研究事例の中で、メンタルヘルスに関わる多くのケースに於いて便秘や下痢などの便性異常が認められていることからも腸内環境を整えるという逆説的なアプローチによってメンタルヘルスに対するアプローチについての研究も進みつつあります。
また、神経変性疾患の一種であるパーキンソン病について、世界では400万人以上の罹患者がいると言われており、快感や意欲、運動調節などに関係する脳内ホルモンのドーパミンの減少や動作緩慢などの運動症状をはじめ、自律神経機能障害、睡眠障害、うつ病、認知機能障害などの非運動症状があることで知られている疾患です。
また、多くの場合、 運動症状よりも非運動症状の方が患者のQOLに対する重大な影響を及ぼしているとも言われており、なかでも特徴的な症状としてパーキンソン病患者の約半数が便秘を患い、 57~67%が排便困難を経験しているとの報告もあります。
また、便秘がパーキンソン発症リスクを2倍にする可能性が示されており国際パーキンソン病・運動障害疾患学会では、便秘をパーキンソン病期の調査基準の前駆症状マーカーの一つにもしています。
さらに、腸内細菌叢の状態ということからすれば、腸内細菌叢のディスバイオーシスとの関係性が示唆されており、パーキンソン病患者の30~50%の小腸内細菌増殖異常症の症状が見られるという報告もあります。
パーキンソン病における細菌叢への介入に関するエビデンスに関しては、現在のところ不十分とされているものの、 プロバイオティクスが、細菌叢構成を変化させ、消化器機能を改善し、パーキンソン病に対しメリットをもたらす可能性のある有用なツールとなり得るという仮説のもと、上海交通大学医学院附属瑞金病院 神経内科 神経科学研究所アソシエイト・リサーチフェローである楊 曉東氏によるバーキンソン病患者を対象に実施した、プロバイオティクスの介入研究をご紹介させていただきます
便秘を有するパーキンソン病患者を対象に128例の被験者に対しプロバイオティクス群またはプラセボ群に無作為に分類した無作為化二重盲検プラセボ対照試験において、 臨床応答、 腸内細菌叢、そして便中代謝物に対するラクトバチルスパラカゼイ・シロタ株摂取の影響を2週間のベースライン期間および12週間の摂取期間での状況に対して、消化器症状、その他非運動症状、 腸内細菌とその代謝物の変化について調査したものです。
ラクトバチルスパラカゼイ・シロタ株12週間摂取の結果、 非運動症状評価尺度 (NMSS) スコアによる評価法では、非運動症状の改善が認められ、うつ病および不安評価尺度に関するスコアの低下につながったということが示されたと同時に、摂取後、プロバイオティクス群では血漿中L-チロシン濃度が上昇し、その変化はプラセボ群よりも顕著に高いという結果になりました。
L-チロシンは、タンパク質を構成するアミノ酸の一つでドーパミンやノルアドレナリンの前駆体の働きをすることでドーパミンの原料となると考えられています。
また、ドーパミンは、ストレス状況下でも気分が改善したり、注意力が散漫になるのを防いだりし、幸福感をアップさせてくれるホルモンとして知られており、気分の安定やモチベーションの維持に役立つホルモンです。
つまり、L-チロシン不足で、適切なドーパミンが産生されず無気力になってしまったり、うつ症状にもつながってしまうのです。
今回の実験では、ラクトバチルスパラカゼイ・シロタ株摂取後、プロバイオティクス群では血漿中L-チロシン濃度が上昇し、その変化はプラセボ群よりも顕著に高いということが明らかになりました。
このことは、ラクトバチルスパラカゼイ・シロタ株の12週間の摂取が、幸せホルモンのひとつであるドーパミンの前駆体であるL-チロシン濃度の上昇につながることで、パーキンソン病患者のメンタルヘルスに関する問題を軽減し、全般的な生活の質を改善させる可能性があることを示唆しています。
脳腸相関という考え方が進むにつれて、メンタルヘルスとプロバイオティクスの関係性は益々関心が高まりつつあります。
そのような中での今回のようなアルツハイマー病とプロバイオティクスの関係についての知見によって、予防医学としての日常的な生活習慣につなげることも出来ることのひとつなのかもしれません。
2025年02月28日
プロバイオティクスは、お腹の中でどうなっているのか

健康の維持増進のために、「腸活」と積極的に取り入れるという方も多いのではないかと思います。その中でも、よく耳にするのが乳酸菌やビフィズス菌などのプロバイオティクスや、腸内細菌のエサと言われるプレバイオティクスの活用です。
その中でも、プロバイオティクスの継続的な利用については、多くの方が実践しているかと思いますが、「生きて腸まで届く・・・」というような、表現についても、疑似胃酸や疑似胆汁酸の中での生存の確認であったり、便中に摂取したプロバイオティクスが遺伝子的に確認できるかということが中心で、それぞれの消化器官の中での細菌叢の分布や代謝に関わる状況についての調査報告はほとんど行われていないのが現状です。
そのような中、内視鏡を用いたプロバイオティクスの腸管内での状態についての調査研究が弘前大学の珍田大輔准教授らとヤクルト中央研究所の共同研究によって行われた事例をご紹介させていただきます。
この事例においては、健康成人男性7名を対象にラクトバチルスパラカゼイ・シロタ株を400億以上含む発酵乳 と、ビフィドバクテリウムブレーベ・ヤクルト株 120億個以上を含む発酵乳の2種類のプロバイオティクスを含んだ飲料を飲んでいただき、小腸の一部である小腸から大腸に繋がる回腸と言われる消化管内の腸液を回収し分析するという方法によって行われました。
この二つのプロバイオティクスについては、ラクトバチルスパラカゼイ・シロタ株が酸素があってもなくても増殖できる通気嫌気性菌であることに対して、ビフィズス菌は偏性嫌気性菌で酸素を嫌う性質であることということで消化管内での分布状況は異なるとされていますので、それぞれのプロバイオティクスの単独飲用のケースと同時飲用との3つの事例についての検証を行っています。
調査の結果、乳酸菌に分類されるラクトバチルスパラカゼイ・シロタ株400億個以上を摂取したケースでは、回腸末端部の回腸液中で、摂取したプロバイオティクスが最大で9割と超える高い占有率であったことと同時に、この占有率が数時間維持されていたという結果となりました。
また、ビフィドバクテリウムブレーベ・ヤクルト株120億個以上摂取した場合についての回腸液中の占有率も、ラクトバチルスパラカゼイ・シロタ株を摂取したときほどの高水準では無かったものの6割から高い被験者で9割となり、さらに同時飲用のケースでは、占有率としての高水準と維持しただけでなく、わずかではあるものの残存生菌数の双方のプロバイオティクスにおいて単独時に対する向上が認められたのです。
プロバイオティクス株の摂取量に対する回腸末端での生残率の平均はいずれも8%程度という結果ではありましたが、生菌数として10億個以上の菌体が回腸末端まで到達したことが明らかにされたのです。
今回実験に利用した二種類のプロバイオティクスに限ってということにはなりますが、摂取後の回腸内での高い占有率が一定の時間維持されるということが解明されたということで、様々な常在菌が存在する環境において経口摂取したプロバイオティクスが回腸末端まで到達し、宿主細胞を継続的に刺激する可能性が示されたということになります。
特に回腸は、小腸の一部で、空腸に続いて大腸に続く部分になりますが、胃や十二指腸で消化された食べ物をさらに分解し、栄養素を吸収するという身体にとっても重要な働きをする器官とされています。
さらに消化吸収だけでなく、回腸下部にはパイエル板と呼ばれる病原体や有害物質を撃退する役割を担っている免疫器官も多数存在していることからすれば、摂取したプロバイオティクスによる継続的な刺激が健康の維持増進に大きな役割を果たすことについての、裏づけのひとつになるのかもしれません。
2025年02月21日
機嫌と記憶の関係を考える

かつて、ドイツの詩人ゲーテは「人間の最大の罪は不機嫌である」という言葉を残したとされていますが、普段、生活を送っている中で、平穏かつ機嫌よく過ごすということは意外に難しいものです。
特に、機嫌についての周りへの影響力は、言語化されているものとは異なり、表情やしぐさ、さらには声のトーンなどの非言語的コミュニケーションと言われる要素によって周りに伝わるものであるとともに、コミュニケーション要素の9割以上ともされている影響力の強いものであることも大きく関係しているかと思います。
そのためには、自分なりの上手なストレスリリースが大切なことは言うまでもありませんが、そのストレスリリースの手段として多くの方が使ってしまうのが、「愚痴を言う・・・」事ではないのでしょうか。
今では、昭和と揶揄されてしまう飲みにケーションといわれるコミュニケーション手段についても、多くの人が、そのような場面が嫌いなわけではなく、「お互いの愚痴の言い合い・・・」や「上司の愚痴や自慢話を聞く・・・」場面というイメージが強くなってしまったからなのではと考えれば、愚痴というストレスリリースの手法も「聞かされる立場」という視点に立てば考え直す必要があるのかもしれません。
多くの場合、会話の内容は、「悪いあの人」「可哀そうな私」「これからどうするか」の3つに分類できると言われています。
この中の前の2つは、聞かされる方の立場からすれば、ただの愚痴でしかありません。そう考えれば、「聞かされている苦しい時間」でありますし、これがビジネスなどの課題解決の場面で多くなってしまえば、生産性の低下などに直結することは誰もが容易に想像がつくものなのですが、実際にはこの2つの話題に引きずられてしまうことが多いのも現実です。
心理学博士でMP人間科学研究所代表の榎本博明によれば、「愚痴の多い人は、けっして嫌なことばかりを経験しているのではなく、良いことも経験しているのに、嫌なことばかり思い出してしまう心のクセを身につけている。」と述べています。
このような傾向は、「落ち込みやすい人」にも当てはまると考えられ、記憶との付き合い方も含めた思考の癖に大きく関わっていると考えられています。
つまり、「嫌なこと」を思い出すことで気分が落ち込み、そして気分が落ち込むと、その気分に関連する記憶を自然と検索するようになり、嫌なことばかりを思い出すという悪循環によって、更に気分が落ち込むという訳です。
落ち込みやすい人の話は、他人からしてみると「よくもまあこんなにつぎつぎと嫌なことばかり思い出すものだ・・・」とあきれるほどに、ネガティブな出来事について繰り返し反芻しているという特徴があるとされています。
その繰り返しの結果、自分は何をやってもダメだなあと自己嫌悪に陥ってしまったり、周りの人の言動に対して「責められている」と感じてしまうことで、周りに対して敵対的な態度や卑屈な態度になってしまうことにもつながり、「面倒くさい人」として映ってしまうこともあります。
確かに、「面倒な人」になってしまうきっかけは、「面倒くさがられた経験」の結果によるところが多いために、すべてをその本人のせいにすることについては、異論もあるかと思います。
とはいえ、このような経験をどのように捉えるかは、その人の意識次第とも言えます。この経験の記憶を過去のどのような記憶と紐づけるかが大きな分かれ道にもなるのです。
例えば、客観的に見てかなり悲惨な目に遭っていると思われる人が、意外に明るい出来事を語るという経験も良くあるのではないのでしょうか。そのような人は、ポジティブな気分を維持することで、その気分に合わせて、ポジティブな出来事が想起されやすいし、ポジティブな出来事が記憶に刻まれ易いという好循環のサイクルを意識して回しているともいえます。
このようなサイクルは、ポジティブな出来事を思い出すことで嫌な気分を中和する気分緩和効果と呼ばれており、心理学実験によって科学的にも実証されているというのです。
まだ起きてもいないネガティブなことを想像することで、一歩を踏み出せないということは誰にでもあると思いますが、その一歩を踏み出さないことで、別のもっと大きなネガティブな結果を引き起こすリスクを想像することが出来なくなるということはよくあることなのかもしれません。
しかしながら、その別の大きなネガティブな結果は、本人以外の多くの人には見えてることが多いため、次第に「口だけの人・・・」「変えたがらない人・・・」「なんでも反対する人・・・」というようにとしか映らないようになっていくだけでなく、そこに関わる人にも影響が及んでしまうという現実がある以上、周りからすれば「放っておいてはいけない問題」に発展してしまうケースも起きかねません。
表情フィードバックという考え方があるように、思考と表情は同期し、「機嫌」という形で可視化されていきます。他人や過去は変えられませんが、過去の記憶との付き合い方である自身の「思考の癖」であれば修正していくことは可能です。
むりやり、ポジティブに・・・という発想になる必要は無いと思いますが、「出来て当たり前・・・」から、「多くの人は、わかっていても出来ないことは、意外にも多く・・・、だからこそ、意識し続けるための工夫をしてみよう・・・」に転換していく事からスタートしていく事で「思考の癖」の修正の入口に立てるのかもしれません。
2025年02月14日
マイクロプラスチックとリーキーガット

マイクロプラスチックに関する社会的な課題については、生物への影響というような生態系に関する環境問題から、人体からの検出事例の報告が上がり続ける中で、人体の影響に関する健康リスクへと広がりつつあります。
日本国内においても、2024年2月に東京農工大学の高田秀重教授らの研究グループによって、人の血液から1000分の1ミリ以下の微細なプラスチックが検出されたという、国内では初めての研究事例の報告がなされています。
海外では、既に脳をはじめ様々な臓器からのマイクロプラスチックの検出事例が報告されており、認知症をはじめ多くの疾患との関連性に対する研究も多くなり関心の高さが伺えます。
高田秀重教授によれば、プラスチックは環境中で非常に細かくなっていくことで、「粒子を取り込んだ魚などの海洋生物の食事による摂取」、「大気中に舞っている粒子の呼吸時などの吸引」など、様々な過程を経て、体内に摂取されている可能性があると指摘しています。
更に、「プラスチックに含まれる添加剤の中には、人の健康や生殖に影響を与えるような成分が含まれている。細かくなってマイクロプラスチックになっていくと簡単に溶け出して生物に取り込まれてしまうようになる。有害性の高い物質は今までも国際条約で規制が行われてきたが、プラスチックにはまだ有害性の検討が不十分な物質が無数に含まれている。このため、使用量と生産量全体の削減が非常に大事だ」とも述べています。
世界では年間3億5300万トンあるとも指摘されるプラスチックごみですが、マイクロプラスチックということで考えれば、洗濯排水に含まれる微細な化学繊維片、走行する様々な車両にから排出される微細なタイヤ片など削減に対する課題が多いことも事実です。
その一方で、多くの生物の消化器官には外界からの異物を取り込まないための仕組みが備わっています。嘔吐や下痢などの排泄の仕組みや消化管に集中している免疫システムなどもその一つです。
一部の化学合成によって作られた人工添加物もそのような意味では、マイクロプラスチックと同様に、人体の本来持っているメカニズムによって体内に入り込み、血液中や様々な臓器に蓄積されることなく腸管バリア機能によって排泄されるという考え方もあるかと思います。
そもそも腸管のバリア機能のなかに、腸管上皮細胞の隙間を密着させるという機能があるのですが、その機能に障害がおこることで、細菌や毒素が体内に流入してしまうことがあり、この現象を「リーキーガット(腸漏れ)」と呼んでいます。
この「リーキーガット」は、皮膚や腸管などの組織に存在し、外部からの刺激や異物の侵入を防ぐ役割であるタイトジャンクション機能と言われる細胞同士を密着させる細胞接着のメカニズムによるバリア機能の不全ともいわれており、腸内細菌の乱れによっておこされているともされています。
このような、リーキーガットのような状態に陥ってしまうことで、外界からの異物であるマイクロプラスチックの体内への流入や蓄積のリスクも高まってしまうとすれば、必ずしも良いことではありません。
このようなリーキーガットに陥る要因というものは、環境問題や食品に関わる様々なっ社会的背景によって、残念ながら高まりつつあります。その一方で、腸内環境を整えるような生活習慣を心掛けることで、リーキーガットのような症状の予防の可能性も指摘されています。
これは、ちょうど宇宙空間での感性症予防について、無菌状態を追求していくことへの限界という課題に対して、宇宙飛行士の免疫システム低下への対策という視点を同時に取り入れ、その手段のひとつとしてプロバイオティクスを利用するのと同じ発想なのかもしれません。
生活を取り巻く環境によって、様々な健康リスクが存在するとともに、一つ一つの要因が複雑に絡み合っています。
そのためには、一つだけに対するアプローチだけでなく、出来ることを総合的に対処していく事が大切です。その方法のひとつに腸活を含めた腸内環境の維持向上によって健康リスクの回避につながるということであれば、今すぐにでも始められる予防手段につながるのかもしれません。
2025年02月06日
男性更年期障害と腸内細菌

歳とともに更年期障害によってQOLの低下に悩んでいる方も多いのではないでしょうか、以前であれば更年期障害と言われるような症状は、女性特有のものとされていましたが、男性にも加齢やストレスによるホルモンバランスの乱れによって、更年期障害というような症状が現れるのはご存知でしょうか。
順天堂大学医学部泌尿器科学講座の堀江重郎教授によりますと、男性の更年期障害では、テストステロンの低下により倦怠感、集中力の低下、不眠、筋力低下、体重増加などが生じ、また、精神面ではイライラ、不安感、落ち込みが見られるとされています。
女性の更年期障害は閉経という遺伝的要因が大きいとされていますが、堀江重郎教授によれば、男性の場合、社会的環境の変化やストレスによる影響が大きく、退職、転職、社会的なつながりを失うことでテストステロンの低下を招きやすくなるというのです。
また、症状についても個人差が大きく、まったく症状がない方もいれば生活習慣病やうつ症状などにつながってしまうようなケースもあるようなので、男性とはいえこのようなことが起こりうるということを認識しておくことは大切かと思います。
また、動物実験の段階なので直接的な因果関係については明らかではないものの、一部の腸内細菌がテストステロンの分泌に関与しているという報告もありますので、腸内環境に対するアプローチも効果的な予防対策のひとつになる可能性もあると考えられています。
現在の研究においては、様々な腸内細菌が産生するポストバイオティクスと呼ばれる代謝物質に注目が集まりつつあります。そして代謝された物質が身体のあらゆる機能を支えていたり、恒常性に寄与している可能性についても様々な研究が行われています。
その様々な機能のひとつにホルモン物質の生成に関することもあるとされていることが、男性の更年期障害に対する効果と言われているのだと思います。
また、有酸素運動や筋力トレーニングなどの運動を取り入れるような生活習慣の改善によって、テストステロンの自然な分泌を促すことも有効な手段のひとつともされています。
とはいえ、社会的な要因が大きいとされていることからすれば、趣味やコミュニティへの参加がストレス軽減につながり、ホルモンバランスの維持には効果的であると考えることも出来ます。
そして、社会的つながり=仕事という状態だけではなく、早いうちから地域コミュニティとの関係づくりや趣味などを通じた仕事以外の人間関係を大切にすることで、長い意味での自身の孤立につながらないような準備も必要なのかもしれません。
男性の場合は、自分の身の回りのことが出来ないことに対して無関心な方も多い傾向があると言われています。
その状態が、仕事中心の生活によって「偏った価値観でも不自由せず、周りの人たちが何とかしてくれる・・・という想い」からくるものだったとすれば、早いうちから、お腹の中の多様性のみならず、人間関係の多様性を意識しながら準備していく事も男性にとっての更年期障害の予防につながるのではないのでしょうか。
2025年01月31日
ポスト化石資源としての微生物の可能性について考える

地球温暖化などの大きな要因といわれています石油などの化石資源について、一時は可採埋蔵量などという言葉があったように、持続可能性とは言えない枯渇性資源であるという現実があります。
とはいえ、産業革命以来、産業の飛躍的発展や豊かな生活と呼ばれるような生活の利便性向上に対して大きな役割を果たしてきたことは紛れもない事実です。
そのようななか、微生物などをもとにしたバイオ技術を活用することで、従来型の化石資源を利用しない形で製品や素材を循環させて利用するようなサーキュラーエコノミー型の持続可能性を模索する流れが進んできています。
近年、ポストバイオティクスと言われるような、微生物の代謝物などの産生物質の活用によって従来の環境負荷型の製造方法を改善することでより効率的に、さらには安価に提供するような事例は既に多く存在しています。
例えば、化粧品や食品などに利用されているヒアルロン酸についても、以前は鶏のトサカから成分を抽出することでしか手に入らなかったのですが、現在では、微生物を利用し、その代謝物などから生産が出来るようになることで、利用が広まったり、安価に提供できるようになった事例の一つです。
また、近年注目が集まっています生分解性プラスチックの原料となっているステレオコンプレックス型ポリ乳酸もシアノバクテリアと呼ばれるラン藻が光合成の過程で産生するD-乳酸という物質を原料にしていますし、このD-乳酸の産生には、大腸菌などを利用する方法もあり、試行錯誤をしている過程と考えられています。
神戸大学先端バイオ工学研究センターの蓮沼誠久教授によりますと、これらの事例のように、微生物を利用し、脱化石資源の方向性を示すことが可能になってきた大きなポイントは、AI技術などを融合することで、それぞれのゲノム情報の解析が劇的に早くなったと同時に、ゲノム編集技術によって効率よく精密な遺伝子操作が可能になったためとしています。
また、洗剤や合成香料、樹脂と言われる素材や農薬など様々な製品の生成に必要だとされているフェノールにおいても化石資源からの生産に依存しいてるのが現状になりますが、フェノール生合成経路の遺伝子を導入することで、フェノール産生酵母株をつくり、その結果、フェノールを生産することに成功した事例もあります。
そもそも、化石資源といわれる様々な物質も単なる経年変化によって生成されたのではなく、そこには多くの微生物と言われるような生命体が関わることで、現在、資源として活用できていると考えれば、改めて微生物たちのチカラを利用することで、地球資源や環境問題解決の糸口につながってくるのかもしれません。
2025年01月24日
「我が家の味」と腸内フローラ

皆さんには、「我が家の味」とか「おふくろの味」というものがありますでしょうか・・・?
小さい時から食べ慣れた味というものは、どことなく安心感につながるものです。例えば、和食の代表的な献立の一つである、味噌汁やお雑煮などはその代表的なものではないかと思います。
かつては味噌汁の違いや、お雑煮の違いで喧嘩になった・・・などという話も度々耳にするようなことあるくらいです。
この話は、一見食文化のようの話題のように見えますが、別の見方も出来るというのです。
「食べたものは、実は腸内細菌によってきめられている・・・」というような話を聞いたことがあるかたもいるかと思いますが、この食文化の礎を担っているのが腸内フローラの可能性があるというのです。
ヒトを含めた多くの哺乳類の腸内フローラは、食糞や分娩時の直接的な伝播や免疫システムにも関わると言われている遺伝子情報を基にした設計図のようなもの、さらに食事の内容の3つの要素によって大きく作用すると考えられています。
そのように考えた場合に、ヒトであれば3歳までにその人固有の腸内フローラが出来上がるということも含めて、その時の食事の影響は少なくないと考えることが出来ます。
ご存知のように、腸内細菌もエサとなるものの多い少ないという状況によって、構成される菌株の割合が変化していきます。そのエサの元になるのは、当然のことながら食事から摂る様々な栄養素になりますので、腸内フローラも当然のように影響を受けるということになります。
慶應義塾幼稚舎と横浜初等部で食育教育に取り組んでいます医師の菅沼安嬉子氏によりますと、「3歳くらいから子どもはいろいろなものを食べ始めるので、『我が家の味』というものを一品で良いので作ってみてください。人間には『これを食べると癒される』という味があるようです」とその人にとっての懐かしく、忘れられない味の重要性に触れています。
更に、「我が家の味」は反抗期の癒し飯にも・・・というように、腸と心の安定についても、「思春期になるとホルモンが嵐のように体内に出てきて脳がパニックを起こします。本人もどうしていいかわからない状態になり、時には親に暴言を吐きますが、それは本人ではなくてホルモンが言わせているので本気にしてはいけません。そんな時は『我が家の味』を作って黙って出してあげることで穏やかになることもあります」とも述べています。
更に、食べるだけでなく、食事をつくることの大切さについても、「奥さんに先立たれた時、残された男性はすぐに亡くなる方が多いですが、自分で料理を作れる人は大丈夫です。・・・」と、高齢になった時の幸福度に大きな影響を与えることにも言及しています。
そして、「小さい頃に作った経験があると、しばらくブランクがあってもいざとなったらできるもので、子どもの頃の食育はとても大事です」とし、「働きながらの育児は忙しく大変だが、1週間に一度で良いので手作りに挑戦してほしい。」と、子どもの頃からのバランスのとれた食事の重要性について、将来の生活習慣病やがん予防との関係性についても述べています。
ご自身の腸内フローラと大きく関係している「我が家の味」、そして、その味を自らつくることが出来ることが、長い意味での幸福度につながる・・・というような考え方も、大切ですが、一方で、「・・・しなければ」にとらわれ過ぎず、経験する、体感する場面が増えていく事で「やったことないから・・・」にならないことを大切に出来るというような軽い受け止めかたをすることで、意識し続けることが出来るのではないでしょうか。
勿論、小さい時からいつも飲んでいた飲み物や、よく連れて行ってもらったご飯屋さん・・・のように必ずしもつくってもらったものでないものが「我が家の味」であってもいいと思います。
こうした、「我が家の味」というような味の記憶は、単なる記憶ではなく・・・腸内フローラにとっても心地いいエサの供給源になっていることで、脳腸相関を通じて心の安定につながっていることの可能性も意識していくことをしてみたらいかがでしょうか。