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2025年05月09日

メンタルヘルスと環境づくり

メンタルヘルスと環境づくり


 近年では、多くの場面で「メンタルヘルス」という言葉を普通に耳にするようになってきたのではないでしょうか。

 一般財団法人 淳風会代表理事長であり東京大学名誉教授の川上憲人氏によれば、「メンタルヘルス」とは、鬱病や発達障害などの具体的な症状を示す「精神疾患」、日常的な不安や、ストレスなど精神疾患につながってしまうような「精神的な問題」、そして、前向きで活気があり、充実して幸福な状態とされる「精神的Well-being」の三つに分けられると考えられているそうです。

 また、「メンタルヘルス」に関わる社会的・経済的損失は、2008年の推計で、精神疾患の年間医療費約1・3兆円に対し、働けなくなったために失われている労働力の損失は6・6兆円と、それを上回る数字になっており、企業でも大きな課題とされているという現状があります。

 そのような中、様々な企業においても人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで投資を呼び込んだり、実際に生産性を上げたりしていこうという流れの中で、メンタルヘルスを重要な柱の一つに位置付けているところが増えてきているとともに、健康優良法人の取得に関しても、メンタルヘルス対策をしていないと優良法人の認定が取りにくくなっているという現状もあるようです。

 先ほど、メンタルヘルスについて、三つの柱があるという話をさせていただきましたが、その中でも、「精神的Well-being」は、医療従事者などの資格や専門性をもったスキルを持っていなくても出来ることの多い領域であり、ポジティブメンタルヘルスとも言われています。

 このポジティブメンタルヘルスとは、不調に陥ったりした場合に状態を元に戻すという事では無く、「エンゲージメント」「仕事をしていると楽しい」「意義とやりがい」「達成感を得る」などによって「より生き生きと元気に働いてもらう環境づくり」をすることで、働く人の満足度や幸福度の向上とともに、生産性の一層の向上にもつながるという考え方です。

 そこで、もっとも重要になってくるのが、「人とのつながり」とされています。

 例えば、上司が忙しく、現場に殆ど顔を出すことが無いような状況が続いたとします。当然、上司の立場からすれば、「忙しいから、全部を見回りできない・・・」という事なのでしょうが、その状況に対して、「うちの職場は見捨てられてる。 随分の間、上司が来てくんないよ。 こんなひどいとこで仕事してもな......」。というような不満がどんどん高まり、休む人が続出。これに気付いた上司が定期的に全ての現場を回って声をかけ、コミュニケーションを取るようにしたところ、みんな元気になって会社に出てくるようになった。
 というような事例も珍しいことではありません。このような、丁寧なコミュニケーションを意識し、実践することが職場の環境の改善につながるという事例のひとつです。

 言い換えれば、「人とのつながり」は、「環境の変化をもたらす・・・」という事であり、メンタルヘルスという視点で考えれば、専門家でなくても出来ることが沢山あるのと同時に、普通の一人の人間として、そういう力を持っているということを認識することが大切なのです。

 また、コミュニケーションをしている中で、「指示が理解できないのでは・・・?」「気が散りやすい・・・」「動かない・・・」「打たれ弱い・・・」と感じることもあるかもしれませんが、このような場面についても知識や経験不足という理由だけではなく、脳の特性が関係しているという可能性を考える必要も指摘されはじめています。

 このような考え方をニューロダイバーシティといい、脳の発達による個人差・多様性と捉え、その違いを尊重し、配慮することで、才能をもっと伸ばして社会の中で生かそうという考え方が広まりつつあるようです。そして、ニューロダイバーシティ傾向のある人に指導すれば改善すると思って対応していると、どんどん悪化しますので、注意が必要とされています。

 その配慮の方法のひとつとして大切なのが、仕組みづくりと標準化になります。

 例えば、いま行っていることが全体の流れの中でどのような役割をしているのかを理解していないのであれば、ただの「やらされ仕事」になってしまいますし、自らの工夫の余地は狭くなってしまうのと同時に、ひょっとするとその工夫が「仇・・・」になってしまうこともあります。

 「何故・・・」を、理解し、その上での仕組みづくりがなされることは、メンタルヘルスでの課題を抱えている人のみならず、そのチーム全体にとっても現状の見直しにもつながります。

 メンタルヘルスという言葉の響きは、どうしてもネガティブになりがちです。そして、職場の環境は、一日の中で長い時間を使うという意味でも、それぞれのライフにとって、重要な意味をもつからこそ、このようなポジティブメンタルヘルスという考え方によって、多くの人が環境づくりに関わっていけると素敵ですよね。






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