2024年07月12日
何故、現代人の便が減っているのか

順天堂大学医学部小林弘幸教授によれば、近年、「食べる量は増えているのに便の量が減っている・・・」と述べています。
現在の、一日に日本人がする便の量は約200gと言われていますが、実際はもっと少なくて、一日80〜100gではないかと考えられているそうです。
その一方で、第2次世界大戦が終わったばかりの調査では、日本人の一日の便の量は約300gと言われていますので、現在と比較して、3倍以上もの開きがあることになります。
皆様もご存知のように、昭和20年当初と比較しても日本人の食事の量が減っているわけではありません。当時は食糧難ということもあり、当然のことながら現在の方が食べる総量は増加しているのにも関わらず、便の量は減少しているというのです。
ここで、確認しておきたいのが「便」は何で出来ているのか・・・?ということです。
多くの方にとって、「便」=「食べ物のカス」であるというイメージが強いかと思いますが、実はそうではありません。健康な人の便の80%が水分で、残る20%のうち3分の1が食べカス、3分の1が生きた腸内細菌、3分の1がはがれた腸粘膜などの腸管内の古い組織とされています。
そこで、大きなポイントになるのが食物繊維です。以前は、「食物繊維は便を増やす効果がある・・・」と言われていましたが、実は食物繊維そのものが食べ物のカスとして、便の量が増えるのではなく、腸内細菌叢の中の善玉菌と言われる微生物のエサとして消費されてしまいます。
その結果、乳酸や酢酸、さらには短鎖脂肪酸と言われるような様々な代謝物が腸内に優性になるために、有害物質を出すとされる悪玉菌が抑えられると同時に、腸内環境が酸性に傾きます。
便の色は、胆汁酸が腸内のPH値によって変化すると言われており、PH値が低いほど黄色が強くなり、PH値が高いほど黒っぽい色になります。便が黄色っぽい状態に近くなることで、腸内環境も良いということになり、腸の蠕動運動が活発になり腸管内の古い組織が便となって出やすくなるのです。
このような便の仕組から考えれば、食べ物のカスはさておき、腸内細菌のエサが確保できることで、腸内細菌の数や多様性が増し、その結果、腸内環境が整うことで腸管内の古い組織との入れ替わりが促進されるというメカニズムからすれば、食物繊維によって便の量が増加するということも理解できるかと思います。
そもそも、食物繊維とは「人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分」を総称しています。その内容は様々になりますが、多くの腸内細菌が生息している大腸付近まで、未消化のままエサとして届かなければ、当然のことながら腸内細菌は栄養不足となり、腸内環境は良い状態にはなりません。
近年よく耳にします、低炭水化物ダイエットの影響で便秘になってしまうという方がいるという話も、「ご飯を抜く・・・」などの穀類=糖類とみなし過ぎてしまうことで、食物繊維が不足してしまう典型的な事例ともいえるのかもしれません。
更に、現代の食生活を考えると、食品の加工技術も飛躍的に向上し、「美味しいもの・・・」が増えました。これも、糖類も含めた精製度合いが向上することで味覚に対する細かいコントロールが可能になったと同時に、食物繊維を含め余分なものが取り除かれてきました。
その結果、食物繊維の摂取量が激減している可能性も指摘されています。
現在、推奨されている食物繊維の一日平均の摂取量は男性で21g以上、女性で18g以上とされていますが、実際は、10gくらいしか摂取できていないとされています。
戦前には平均30gの食物繊維を摂取していたと言われていますので、現代人の便の量が3分の1に減ってしまったのは、食物繊維の不足との大きな相関関係があることが伺えます。
かつては、身体には必要のない成分だと思われ、誰からも見向きされない不遇の時代を過ごした食物繊維ですが、2000年頃から腸内細菌の研究が進むにつれて、食物繊維やオリゴ糖などの難消化性の成分が腸内細菌のエサになることがわかってきたことで関心が高まり、プロバイオティクスに対して、プレバイオティクスという言葉も生まれてきました。
しかしながら、現実の摂取量からすれば、食物繊維は食生活の変化によって意識的に摂らないとなかなか摂取することが出来ない成分のひとつなのかもしれません。
そのような中、食物繊維の摂取の量が、便の量、色、臭い・・・に現れることを意識してみると良いかもしれませんね。