身体のチカラ › 身体のしくみ › プロバイオティクスを活用した治療について考える(Ⅱ)

2024年11月13日

プロバイオティクスを活用した治療について考える(Ⅱ)

プロバイオティクスを活用した治療について考える(Ⅱ)


 手術などの外科的治療が必要となるような重症患者において腸内細菌叢がディスバイオーシスと呼ばれるような状態に陥っており、術後の感染合併症のリスクの上昇や入院期間の長期化など、手術後の予後に対して大きな影響を与えているとされています。

 そして、腸内細菌叢を維持していくために医療現場でプロバイオティクスを利用したり、プレバイオティクスを併せたシンバイオティクス療法によって下痢や便秘などの消化器系の不調や人工呼吸器肺炎などの感染合併症の予防効果が期待されています。

 その中でも、胃がんのように腫瘍部の切除によって、胃液の減少による感染源となる細菌などの腸管への侵入リスクの増加が伴うようなケースもあります。

 胃がんは、がんによる死亡数で性別によって順位が異なっていますが、男性では肺がんに次いで2位、女性では大腸がんに次いで3位と死亡数の比較的多い癌として知られています。

 胃は、食道に続く臓器で、「食べたものを一時的に蓄える」、「食べたものの一部を消化する」「食べたものを殺菌する」などの働きをすることで、栄養分を吸収するための臓器である腸にバトンを渡す役割をしています。

 しかしながら、手術によって胃をすべて切除したり、部分的な切除によって胃が小さくなることで、通常通りの食事量が胃の機能に対して過剰になったり、良く噛まずに飲み込んだりすることで、「ダンピング症候群」、「小胃症状」、「逆流性食道炎」などの合併症を起こしやすくなるとされています。

 そのために、食事の際には少量ずつゆっくり食べることが必要になってくるのですが、気を付けていても、手術後は胃と他の消化器官との連携が上手くいかないことで便秘や下痢などの不調に繋がるケースがあるようです。

 そして、胃の切除手術を受けた人と受けていない人を対象とした調査では、胃切除手術を受けた人の約6割に、便秘や下痢といった便通異常の自覚症状があるという報告もあります。

 下痢の原因については、ほとんど消化されない食べ物がそのまま小腸に入ってしまうことで、小腸での消化吸収が追いつかないことや、食べ物などと一緒に入ってきた細菌が、殺菌作用の強い胃酸の影響を受けずに小腸に達してしまうことで、腸内細菌のバランスが乱れてしまい下痢の誘発に関わっていると言われています。

 一方、便秘は手術後の食事量の減少、排便に必要な腹筋力の低下、腸管の癒着によって便の移動が滞ってしまい過度に水分が吸収されてしまうことや、胃を切除した際の迷走神経の切断によって腸の運動が鈍くなってしまうことなどに起因すると言われています。
 
 下痢と比較しても、便秘の方が食事後のおう吐や逆流性食道炎、腸閉塞の原因にもつながる可能性が指摘されていますので、症状の長期化には気を付ける必要があるとされています。

 そのような中、胃を切除し便通異常を訴える118名を対象に行われたプロバイオティクスを利用した便通異常に対する改善効果に関する報告がありますので、ご紹介させていただきます。

 方法としては、乳酸菌シロタ株の入った乳飲料とプラセボ飲料(色や風味は同じで乳酸菌 シロタ株を含まないもの)を毎日1本4週間飲んでもらい、便通に対する影響について頻度、便性状に関するアンケートに毎日記入してもらい、その結果をスコア化するという方法で行っています。

 更にその中から便秘スコアが平均値より高い人を「便秘ぎみ群」、下痢スコアが平均値より高い人を「下痢ぎみ群」、両スコアとも平均値より高い人を「便秘+下痢群」、残りの人たちを「正常群」に振り分け、解析を行いました。

 解析の結果、乳酸菌シロタ株乳飲料の飲用により、「便秘ぎみ群」の便秘症状、「下痢ぎみ群」の下痢症状がプラセボ飲料を飲用したグループに対して、優位に改善されるという結果になったとともに、便を用いた腸内細菌叢の解析結果についても「便秘ぎみ群」でも「下痢ぎみ群」でも乳酸菌シロタ株の入った乳飲料の飲用によって改善されるということが報告されています。

 胃がんは代表的な癌であり、かつては死亡者も多い癌でしたが、手術の技術向上によって長期生存者が増加しているという非常に良い傾向になっている一方で、便秘や下痢などの症状などをはじめとする様々な後遺症に悩んでいる方が多いという現実もあります。
 
 現在では、胃を切除した患者さんの便通異常は、器質的な原因によって生じると考えられ、今のところ根本的な対処法がないとも言われている現状ではありますが、今回の報告のように、胃がん手術後に便通異常を訴える人に対して、乳酸菌シロタ株が役立つ可能性が示されたことはQOLの向上についても大きな期待につながります。

 これらの事例のように、病気になる前に病気にならない身体に・・・という予防医学の実践に対して、プロバイオティクスを活用するだけでなく、病気や怪我をしてしまった時に、症状がひどくならない・・・というケースにおいても臨床ベースでプロバイオティクスが利用され始めているということからすれば、日頃からのプロバイオティクスを利用した、予防医学の実践が、なってしまったときの重症化の予防にもつながると考えることもできますね。





同じカテゴリー(身体のしくみ)の記事画像
腸内細菌叢とメンタルヘルス「パーキンソン病に関する研究事例」
プロバイオティクスは、お腹の中でどうなっているのか
マイクロプラスチックとリーキーガット
男性更年期障害と腸内細菌
「我が家の味」と腸内フローラ
腸内細菌によるストレス緩和・睡眠効果のメカニズムについて考えるⅡ
同じカテゴリー(身体のしくみ)の記事
 腸内細菌叢とメンタルヘルス「パーキンソン病に関する研究事例」 (2025-03-07 16:52)
 プロバイオティクスは、お腹の中でどうなっているのか (2025-02-28 10:21)
 マイクロプラスチックとリーキーガット (2025-02-14 09:19)
 男性更年期障害と腸内細菌 (2025-02-06 14:52)
 「我が家の味」と腸内フローラ (2025-01-24 13:55)
 腸内細菌によるストレス緩和・睡眠効果のメカニズムについて考えるⅡ (2024-12-20 16:46)

Posted by toyohiko at 13:02│Comments(0)身体のしくみ
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。