2024年10月03日
腸内細菌とお腹の調子との関係を考える

潰瘍性大腸炎やクローン病という病名を耳にしたことはありますでしょうか?
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に糜爛と呼ばれる炎症や潰瘍ができる炎症性疾患で、血便、下痢、腹痛などを不定期に繰り返すことでQOLの低下が著しい国指定の難病です。
また、クローン病も炎症性腸疾患のひとつで、米国の内科医クローン医師が初めて報告したことで知られる病状で、潰瘍性大腸炎と比較して口から肛門までの消化管全域に炎症を起こして炎症が深部に及ぶ傾向があると言われており、これも国指定の難病になります。
この二つの症例については、1970年代には年間に1,2例というような珍しい病気とされていましたが、現在ではその患者数が年間23万にも上るとされています。
これらの症状は、「原因不明の腸炎」とも言われていましたが、近年の研究によってその主な原因が腸内細菌によるもの・・・と考えられるようになって来ています。
順天堂大学大学院腸内フローラ研究講座の大草敏史特任教授によれば、これらの症状の患者の腸粘膜の中に悪玉菌が侵入してしまうことで、腸の防御力が低下し症状につながっていく可能性を指摘しています。
そもそも、腸内細菌には、善玉菌と呼ばれる人体に良い働きをするものと、悪玉菌が存在し、その悪玉菌が腸から体内に出ていく事で様々なトラブルを引き起こすと考えられています。
そのために、腸管には粘液や免疫のほか、細胞と細胞の間が緊密に接着されている細胞構造などで防御するためのバリア機能があります。
そして、このバリアをすりぬけて腸内細菌が漏れだしてしまうことをリーキーガット(腸管壁浸漏)と呼んでいます。
大草敏史特任教授は、このリーキーガットの原因について、日本人の食生活の変化である、と指摘しています。
その大きな要因の一つが、高脂肪食とプレバイオティクスである食物繊維の不足です。そして、食生活における脂肪摂取・食物繊維摂取の変化と潰瘍性大腸炎の患者数にも相関関係がみられると述べています。
以前から、高脂肪食と言われる脂肪分の多い食生活によって、腸管から腸内細菌の透過性が高まることで漏れやすくなり、「リーキーガット」をもたらすことがわかっています。
そのほかにも、アイスクリームやパンによく使われる増粘剤や乳化剤、人工甘味料なども「リーキーガット」の原因になりますので、これらを食べ過ぎないためにも高脂肪の加工食品には注意が必要です。
また、清涼飲料水に入っている「果糖」も飲みすぎると、悪さをして腸内細菌が漏れる透過性を高めると言われていますし、アルコールにも腸のバリア機能を低下させる作用があります。
アルコールによるリーキーガットが起きると、エンドトキシンという大腸菌、サルモネラ菌、緑膿菌などのグラム陰性菌の死骸から発生する毒素が、血中に漏れだします。このエンドトキシンが血流にのって肝臓に達し、そこで炎症、つまり肝炎を引き起こすのです。
その一方で、乳酸菌やビフィズス菌は「善玉菌」として多くの方に知られていますが、これらのプロバイオティクスと呼ばれる腸内細菌は腸管のバリア機能を強化することが報告されています
更に、癌の発症についても消化器官に存在する様々な微生物との関係が多くの研究によって明らかになりつつあるようです。
既に、多くの皆さんがご存じなのが胃に定着しているとされるヘリコバクターピロリ菌と胃がんとの関係ですが、大腸がんの組織からフソバクテリウム属の細菌が多く検出されていることから、フソバクテリウム属の微生物によってポリープが癌化するメカニズムとの関わりが指摘されています。
更に、食道がんの組織からも歯周病菌がたくさん検出されていることから、口腔の歯周病菌が食道に移り、発がんの促進に関わっている可能性も指摘されていますし、すい臓がんの組織からも特定の腸内細菌が検出されていることに加え、すい臓がん患者の口腔内での歯周病菌が多いことなどからも、歯周病菌とその腸内細菌が膵臓での炎症を起こすことで癌化に関わってる可能性についても議論されているようです。
これらの事例についても、これからの研究成果によって解明されるところが多いと思いますが、身体に起こる多くの不調が、お腹の状態に大きく関わっているとともに、リーキーガットを起こして腸管から漏れ出してしまった腸内細菌をはじめとするあらゆる微生物が関わることで、発症のリスクの上昇につながっていると考えれば、これまで「原因不明」とされてきた難病も、原因となる微生物を特定することで予防や治療につながる可能性も高まってくることが期待されます。
良い菌と上手に付き合いながら「お腹の調子を整える・・・」ことで、健康につながるという健腸長寿の考え方そのものですね。
Posted by toyohiko at 15:03│Comments(0)
│身体のしくみ