2024年09月11日
グリーンインフラという流域治水の考え方

異常気象という言葉が、日常的に聞かれるようになりつつある昨今、異常という言葉を使用することそのものが問われるような、気象現象による風雨災害や、それに伴う土砂災害がここ数年非常に多くなってきています。
このような状況を解決するためにも、自分たちでも出来ることは少しずつ進めていく事がますます必要になって来ています。
豪雨による道路の冠水や内水氾濫と言われる下水などへの過剰な流入によって起こる様々な被害もその一つです。
これは、車に例えれば一般道と高速道路の違いのような事が、生活圏内での水の流れで起きていると考えることが出来ます。
例えば、高速道路の降り口での渋滞は、排水溝の数や溜枡の詰まりになります。更にその後の一般道まで渋滞していれば高速道路の降り口の付近まで渋滞が広がり、高速道路そのものまで渋滞してしまうようなものです。
ここで、ポイントなのは地表に降り注いだ雨水などの水は、都心部を中心にアスファルトの舗装路やコンクリートで覆われた地表を、高速道路を走るように排水溝にいち早く向かうしかなくなってきているということです。
よく、「現行の排水設備の許容量を超えている・・・」という話を耳にしますが、このような現状のなか排水効率を上げるには、下水管をはじめとする様々な排水設備の口径を広げるということになります。
しかしながら、このような災害インフラ投資が現実的かといえば、膨大な予算が必要なことも含めて現実的だとは思えません。
ここで、着目しなければいけないのが、「降水量が増えたのか・・・」、「地表の高速道路化によって排水設備への流入量が増えた結果なのか・・・」ということです。
そこで、近年あらためて注目されつつあるのが、水の流れの高速道路化を防ぐためのグリーンインフラという考え方です。
このグリーンインフラという概念は、米国で発案された社会資本整備手法で、自然環境が有する多様な機能をインフラ整備に活用するという考え方を基本としており、近年欧米を中心に取組が進められているとされています。
日本国内では、平成27年度に閣議決定された国土形成計画、第4次社会資本整備重点計画で「国土の適切な管理」「安全・安心で持続可能な国土」「人口減少・高齢化等に対応した持続可能な地域社会の形成」といった課題への対応の一つとして、グリーンインフラの取組を推進することが盛り込まれています。
しかしながら、様々な学説や考え方による賛否が分かれる中、「我が国が直面する様々な課題を解決する上で示唆に富むもの・・・」というような方針に留まり、社会資本整備や国土利用等、国土交通行政分野における取組の方向性を示したものにはならず、都市部を中心に水の逃げ場のないコンクリートだらけの都市インフラ整備の方向性が続いているのが現状です。
近年の自然災害の多くは、「水」によってもたらされています。豪雨による洪水や土砂災害にしても結果的には水がどのように立ち振る舞うか・・・であって、コンクリートなどによる構造物で完全にコントロール可能なものであるはずがありません。
しかしながら、「コントロールできると思い込みたくなる・・・」のです。
その大きな理由の一つは、目先の利便性です。
モータリゼーションが進めば進むほど、舗装路の利便性が実感できます。「ホコリは立たないし、音もうるさく無い・・・、草も生えないから草取りしなくていい・・・、何よりも、車の動きもスムースだし汚れない。」未舗装であれば、全て真逆ですが、水の逃げ場は排水溝しかありません。
逆の視点で見れば、未舗装の場合は、「草も生えるけど昆虫も含めたいろんな生物が身近にいる・・・、マイクロプラスチックの原因の多くを占めると言われるすり減ったタイヤの海洋流出の減少・・・、地球温暖化までとはいかないが、ヒートアイランドの緩和にもつながる・・・」など、人間生活の利便性に対して生態系の持続可能性に寄与する部分が多いことも事実です。
これが、天秤の両端にぶら下がっているものだとすれば、もう少し足元の自然を大切にして一人でも多くの人が「ひと手間かける・・・」ことを惜しまない社会にしていくことで、水に関する災害についても少しずつ変化させていく可能性が残っていると考えることはできないでしょうか。
少し前に、大手企業が除草剤を使って街路樹を除去しようとしたことが話題になりましたが、その行為について多くの人たちが、利己的かつ身勝手な行動であると思ったでしょう。
さらに除草剤をつかうことで、「その周りの土もダメにしてしまう・・・」と感じた方もいたでしょう。
しかし、現実には表土が出ていれば雑草が繁茂します。その雑草の除去も大変な作業になりますし、場合によってはそれなりの経費も掛かります。
そのひと手間を誰かが担わない限り・・・、そのひと手間を掛ける意味を感じない限り・・・、「自然が有する多様な機能」を享受するグリーンインフラという考え方によって、持続可能性に近づくことは難しいのです。
地形によって降った雨や溶けた雪が水系に集まる範囲、または集水域とも呼ばれる地域を示す「流域」という概念がありますが、河川や池に対してだけに注意が行きやすいですが、ありとあらゆる水が、地形の高低差を利用して海に向かおうとします。
つまり、非常に広い範囲での保水力は地球というエコシステムにおいて重要な役割を果たしているのは、治水という視点においても同じことです。
山林の保水機能があってこそ、河川が存在するのと同じことです。
一時的な治水対策として、貯水タンクを利用することもありますが、そこには下水などから流入する細菌やウィルスに汚染された汚水を貯留することにもなりますので、衛生面でのリスクは否めないという現実もありますし、流入量の予測に誤りがあれば税金の無駄遣いにもつながってしまいます。
グリーンインフラという概念は、「自然環境を守る」という概念とはあえて一線を画し、「自然の機能を利用する」と考えることで、社会活動と環境保全の調和を目指す仕組みです。
それには、目の前の利便性を最優先するだけではなく、一人ひとりが「面倒な事・・・」に対しても少しずつ持ち出しをすることが普通になっていく事からなのかもしれません。