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2025年05月16日

「甘いもの好き」と微生物との関係について考える

「甘いもの好き」と微生物との関係について考える



 「甘いものには目がない・・・」とか、「甘いものは別腹・・・」というかたも多いのではないでしょうか。
 また、「甘いもの」は、脳の報酬系に作用すると言われていることからも、「やめられない・・・」「ついつい、口にしてしまう・・・」というややこしい面も持ち合わせているのが「甘いもの」です。

 更に、砂糖をはじめとする糖分摂取量の増加によって、エネルギー恒常性の破綻を引き起こし、肥満や糖尿病などの健康課題において重要なリスクファクターであり、特に肥満については、単に体重が多いというだけでなく、糖化による慢性炎症の状態であることが多いためにあらゆる疾病のトリガーとしてのリスクも指摘されています。

 そのような中、「甘いものは食べたいけど、その一方でなるべく控えたい・・・」というのが多くの方が思うところなのだと思います。

 そこで、近年注目されているのはプロバイオティクスと呼ばれる消化器官を中心とした宿主の健康に良い効果をもたらす共生微生物です。

 代表的なのは、乳酸菌やビフィズス菌などの糖を摂取して、乳酸や、酢酸、酪酸などの短鎖脂肪酸を代謝する微生物です。
 ここで、疑問に思うのが、「糖は、腸内細菌のエサになるのにも関わらず、「甘いもの」を食べ過ぎると消化吸収されてしまい、肥満などにつながってしまう・・・」という事との矛盾です。

 確かに、多くの糖質は、胃と小腸を通過する過程で消化吸収されてしまうために、数100種類、数100兆個と言われる多くの腸内細菌が存在する大腸までは殆ど届きません。よって、オリゴ糖などの難消化性の糖や食物繊維を摂取することになるので、多くの糖分は、過剰な栄養・・・として蓄積されてしまうと考えられています。

 そのような中、過剰に摂取した砂糖を腸内でEPSと呼ばれる食物繊維様物質である難消化性菌体外多糖に変換する性質を持つ微生物が存在し、糖の吸収を抑えるだけでなく、腸内環境を改善し、砂糖(スクロース)誘発性の肥満を防ぐ可能性についての研究報告がありますのでご紹介させていただきます。

 この研究を行ったのは、京都大学大学院生命科学研究科 木村郁夫教授、同大学 清水秀憲共同研究員、東京農工大学大学院農学研究院 宮本潤基准教授らの研究グループで、約 500 人のヒト健常者および肥満症患者の便を調査することで、唾液レンサ球菌の仲間であるStreptococcus salivariusという微生物が、摂取した炭水化物中の過剰なスクロースを腸内で有益な食物繊維様物質である難消化性菌体外多糖(EPS)に変換することが明らかになったとしています。

 Streptococcus salivariusは、生後数時間でヒトの口腔と上気道に定着し、それ以上菌に曝露することなく、ほとんど無害とされている球状グラム陽性通性嫌気性乳酸菌として知られています。

 この研究グループでは、キムチや漬物といった発酵食品の産生に関わるLeuconostoc mesenteroides という乳酸菌が同様に難消化性菌体外多糖(EPS)を産生し、そのEPSがポストバイオティクスとして宿主にたいして代謝的利益をもたらすという報告もしています。

 近年、ポストバイオティクスと呼ばれる腸内細菌による代謝物が注目されつつありますが、短鎖脂肪酸だけでなく、糖から難消化性多糖類を生成する微生物の存在が明らかになり、その代謝物によって宿主の代謝的利益に寄与する可能性が示されたことは、「甘いもの好き・・・」にとっては、朗報なのかもしれません。






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