2024年12月13日
腸内細菌によるストレス緩和・睡眠効果のメカニズムについて考えるⅠ

脳腸相関という考え方が広がりつつあるなか、腸内細菌叢と宿主であるヒトの精神状況への作用に関する研究報告も多くみられるようになり、「腸内細菌-腸-脳相関」の概念が広く認知されるようになってきました。
徳島大学大学院医歯薬学研究部医療教育学分野の西田憲生准教授によりますと、脳と腸との関係については、神経系の伝達だけでなく、腸の情報が迷走神経や血液を介して脳に伝わって脳機能にも影響を及ぼすなど、脳腸相関において腸内細菌は重要な働きをしていることが解りつつあると述べており、現在では、大きく分けて神経因子と液性因子の二つの伝達経路があることが解ってきました。
そもそも、ヒトなどの哺乳類の脳は、原始的な動物の腸管神経系が進化したものと考えられており、また、腸管神経系は、胎児期に頸部の迷走神経堤細胞が腸管に沿って形成されることからしても脳と腸管神経系には密接な関わりがあることがわかっています。
神経因子と呼ばれる仕組みとしては、腸管免疫システムの中で重要な役割を担っているM細胞や樹状細胞などが、腸内環境の状態を認識することで迷走神経を通じて、中枢神経系とされる脳に伝達されるような仕組みになっています。
また、脳に伝えられた情報は、そのほかの情報と統合されることで適切な情報に更新され、腸管を含めた全身に伝えられるという相互の伝達のメカニズムになっているのです。
一方、液性因子は、消化管ホルモンや腸内細菌により産生される様々な代謝物が血流を通じて、中枢神経系に直接的あるいは、間接的に作用する仕組みであり、この二つの調整因子によって、腸内細菌-腸-脳相関のネットワークが形成されることで、ヒトの恒常性の維持向上に大きな役割を担っていると考えられています。
このメカニズムを裏付けるような研究事例として、腸内細菌を全く持たない無菌マウスによる研究報告もあります。
この実験は、無菌マウスと無菌マウスにビフィズス菌を与えた場合のストレス応答につついて九州大学の須藤信行教授らの研究グループによって行われたもので、無菌マウスは、通常の腸内細菌を持つマウスに比べて、生体のストレス応答が過剰になることが明らかになったと同時に、ビフィズス菌を無菌マウスに与えると、過剰なストレス応答が通常マウスと同等レベルまで抑制されるということが明らかになったと報告しています。
既にご存知の方も多いかもしれませんが、腸内細菌叢とストレスとの関係は以前から、多くの研究がなされており、ストレスによって腸内細菌叢の乱れにつながることは明らかになっています。
このような関係からしても、迷走神経が担っている情報伝達量の約90%と言われる脳と腸との伝達の仕組の解明は重要であり、腸内細菌が迷走神経を整えている、という研究報告もあるようです。
ヒトの健康に対して大きな影響を与えている腸内細菌-腸-脳相関についてこれからの研究成果に大きな期待がかかっています。
Posted by toyohiko at 09:00│Comments(0)
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