2024年06月21日
腸内細菌と脳の発達

近年、脳腸相関という言葉をよく耳にするようになってきました。その背景には、腸内細菌叢と脳との関係に注目した研究が増えたことで、腸内細菌叢が脳の発達に影響を与えることや脳と腸のお互いの相互作用によって大きな影響を与え合うことが解ってきたとともに、健康の維持増進に含めて現代の社会課題の解決につながっていることにあります。
また、それぞれの個体の腸内細菌叢は多くの哺乳類の場合には、無菌状態から一定の期間を経てその個体独自の腸内細菌叢が形成されることは既に解っています。
その腸内細菌叢形成に大きく関わっているのが母乳と考えられているのです。
そして、ヒトも含めた哺乳類は、仔を母乳で育てるという特徴をもっています。
そして、母乳は単なる栄養源だけでなく、オリゴ糖やラクトフェリンなどが含まれると言われていますが、現在の研究では、ヒトの母乳に含まれるオリゴ糖は130種とも250種とも言われており、成長期の生体防御に関するシステムの形成にも寄与していると考えられています。
更に、ビフィズス菌などのプロバイオティクスに分類されるような菌株が分離された事例もあることからすれば、まだまだ未解明のところも多いですが、母乳に含まれる様々な成分によって臓器の形成のみならず、腸内細菌叢の形成にも大きな役割を担っている事がわかってきています。
このような中、国立大学法人東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門・永岡謙太郎教授らの研究グループは、哺乳類が独自に発達させてきた母乳が子の発達に対して持つ新たな知見や腸内細菌叢の形成期における脳の発達との関係に着目し、マウスを活用した実験を行っています。
この実験によれば、母乳中のLAO1と呼ばれるアミノ酸代謝酵素から産生される過酸化水素が腸内細菌叢の形成に関与しているだけではなく、腸内細菌叢由来の代謝物を通じて脳神経細胞の電気活動を安定させるための髄鞘発達に影響を与えている可能性についての報告をしています。
このことは、乳幼児期の腸内細菌叢の形成に母乳が大きく関わっていると同時に、その腸内細菌叢が脳の発達に影響を与えるということであれば、哺乳類に特徴的な母乳が仔の腸内細菌叢形成や脳発達を制御する仕組みのさらなる解明は、将来的には脳の発達を促進する腸内細菌叢の形成への入口にもつながるのかもしれません。
Posted by toyohiko at 16:46│Comments(0)
│身体のしくみ