身体のチカラ › 身体のしくみ › あらためて「睡眠の質」について考える

2024年12月05日

あらためて「睡眠の質」について考える

あらためて「睡眠の質」について考える

 日本での「睡眠に対する軽視」は、「寝ずに頑張る・・・」、「夜通し頑張る・・・」というような睡眠を削るという生活習慣に対して、ポジティブな言い回しが存在することからも指摘され始めています。

 実際に、日本人の約5人に1人は、睡眠の質に影響を与える「睡眠時間の不足」 「日中の眠気」「睡眠中の覚醒」など、睡眠に関わる問題を抱えていることがOECDの調査で明らかになり、2021年の報告では、日本人の平均睡眠時間が調査した33カ国の中で最も短く、各国平均に対して1時間も少ないことも明らかになっています。

 しかも、2022年10月発表の「健康日本21」の 最終評価によれば、「睡眠の質」の評価において、維持向上しているという状況ではなく、悪化しているという判定になっているのが現状です。

 そもそも、「睡眠に対する軽視」は、自らの健康に対する軽視のみならず、睡眠不足によってもたらされる交通事故や労働災害などの社会的影響をも社会全体が軽視しているということにもつながっています。

 日本睡眠学会理事長で久留米大学学長 内村直尚氏によれば、睡眠には、「身体や脳、 こころの休養や疲労回復」という大きな役割があるとしています。

 眠っているときはストレスから解放され、日中の活動で酷使し、ストレスをかけ続けた身体や脳の疲労を回復させます。
 さらに、交感神経と副交感神経を調整し、脳をはじめとする臓器を休ませるために体温を下げるなどの機能を働かせ、エネルギー消費量を抑えるとともに蓄えることで、成長に必要な成長ホルモンなどの分泌や、免疫機能の調整、さらには記憶の定着強化など身体の様々な機能の調整機能を担っているのです。

 また、2019年に厚生労働省が発表した「国民健康・栄養調査」では、20~59歳の各世代で、睡眠時間が6時間未満の人が約35~50%を占め、5時間未満は約5~12%に上るという結果が報告されています。
 このように睡眠時間が短いことで、肥満、 高血圧、糖尿病、心疾患、脳血管疾患、 認知症、うつ病などの発症リスクが高まることとともに、覚醒時間が長くなると、交感神経が優位な状態が長く続き、血圧上昇、インスリン抵抗性増大など、 身体のさまざまな働きに影響を及ぼし、身体疾患や精神疾患の発症 悪化 死亡リスクが上がるとも考えられています。

 睡眠については、「寝る時間がない・・・」というような生活習慣に依存するものと、「寝られない・・・」という身体の状態によるものがありますが、「眠れない・・・」原因の多くは、ストレスとされています。
 睡眠とストレスは表裏一体と考えられており、強いストレスは交感神経を優位にし、入眠困難、 中途覚醒、 浅い睡眠などで、睡眠時間も睡眠休養感も満足できるものではなくなります。そのため、眠れているかどうかは、ストレスの程度やストレスからどのくらい心身が追い詰められているかを反映する、一つの指標になるとされています。

 内村直尚氏は、目覚めたときに、「心身を休めることができた」「すっきりとした目覚め」という充足感は、その人の健康度を反映する指標であり、自覚できる指標の一つとして、重視してほしいと述べています。

 睡眠に対する大きなマイナス要因は、ストレスと生活リズムの乱れと言われています。

 眠気と言われる睡眠欲求は、覚醒時間のみならず体内時計に大きく依存すると考えられていますので、起きてから、朝日をしっかり浴びる 状態を起点として、約16時間後(高齢者では15時間後)に睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンが分泌されます。
 当然、メラトニンの原料であるセロトニンやセロトニンの原料と言われるトリプトファンが必要になりますので、タンパク質を中心とした朝食をしっかり摂る習慣も大切です。

 そして、メラトニンが分泌されることで、急激に覚醒水準が下がり「眠気が襲ってくる・・・」という状態になります。
 しかしながら、その手前の時間帯は一般的に覚醒水準が高くなっているために、食後のうたた寝などが、入眠障害につながるというケースも指摘されています。
 また、一般的には、19時から22時位が覚醒水準の高い時間帯といわれていますので、そのような体内時計のリズムを意識して、寝床に入ることも有効な手段の一つです。

 また、ストレスについては眠れているにも関わらず、「眠れていない・・・」と感じることや、「寝なければいけない・・・」という強迫観念からくすストレスによって交感神経を刺激してしまい、睡眠の質が下がるということはよくあるとされています。

 睡眠に対する不安がある場合は、「適度な疲労感を感じる程度の運動を意識して、眠くなったタイミングで入眠し、朝は一定のリズムで起床する・・・」という、遅寝早起きが有効だとされています。

 また、近年ではウェアラブルデバイスの発達によって、睡眠に対する詳細なモニタリングも可能になってきましたが、加齢とともに睡眠する力も変化してきます。

 例えば、10代までの睡眠は、20%くらいが深い睡眠ですが、60歳を過ぎると深い睡眠は2~3%と大きく下がるとされています。
つまり、 加齢によって深い睡眠は減り、浅い睡眠が多くなるのは、ごく自然なことであり、心身の機能に悪影響を及ぼすことはほとんどないとされています。にも関わらず、若い頃のようにぐっすりと眠りたいと切望する高齢者はたいへん多いという認識のずれによる「睡眠への不安」もあるのです。

 このようなことからすれば、睡眠に対しての仕組みを理解し、それに基づいたメリハリのある生活のリズムを送ることが「睡眠の質の向上」につながるのでないでしょうか。





同じカテゴリー(身体のしくみ)の記事画像
腸内細菌叢とメンタルヘルス「パーキンソン病に関する研究事例」
プロバイオティクスは、お腹の中でどうなっているのか
マイクロプラスチックとリーキーガット
男性更年期障害と腸内細菌
「我が家の味」と腸内フローラ
腸内細菌によるストレス緩和・睡眠効果のメカニズムについて考えるⅡ
同じカテゴリー(身体のしくみ)の記事
 腸内細菌叢とメンタルヘルス「パーキンソン病に関する研究事例」 (2025-03-07 16:52)
 プロバイオティクスは、お腹の中でどうなっているのか (2025-02-28 10:21)
 マイクロプラスチックとリーキーガット (2025-02-14 09:19)
 男性更年期障害と腸内細菌 (2025-02-06 14:52)
 「我が家の味」と腸内フローラ (2025-01-24 13:55)
 腸内細菌によるストレス緩和・睡眠効果のメカニズムについて考えるⅡ (2024-12-20 16:46)

Posted by toyohiko at 17:14│Comments(0)身体のしくみ
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。