2024年11月01日
腸内細菌は身体に悪い物質もつくってしまうのか?

近年の研究で、腸内細菌のつくり出す短鎖脂肪酸などの物質が宿主であるヒトの健康の維持増進に大きく寄与していることは、広く知られるようになりつつあります。
また、短鎖脂肪酸のみならず、ビタミン類など代謝物として様々なものがあると考えられており腸内環境を整えることによる健康効果に期待が高まっています。
そのような中、トランス脂肪酸の一つであるエライジン酸を産生する腸内細菌が存在することが解ってきたというのです。
トランス脂肪酸は、LDL-コレステロールを増やし、HDL-コレステロールを減らす働きがあり、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患などの病気のリスクを高める可能性があることで知られています。
理化学研究所生命医科学研究センター粘膜システム研究チーム 大野 博司氏らの研究によれば、肥満・高血糖を悪化させる可能性のある腸内細菌の一つとしてファーミキューテス門のFusimonas Intestini(FI)菌に着目し、マウスによる実験と併せて、肥満・糖尿病患者と健常者のそれぞれ34人の糞便中に含まれる腸内細菌の解析に関する報告をしています。
マウスによる実験では、腸内に大腸菌のみ定着させたマウスの餌にFI菌を添加して腸に定着させた場合と大腸菌のみの場合とでの比較試験を行った結果、FI菌が定着しているマウスの場合には、通常食では、体重や脂肪量に変化が見られなかったのに対して、高脂肪食を与えた場合には、体重と脂肪量が増加したのみならず、血中コレステロール濃度が上昇しただけでなく、トランス脂肪酸の一つであるエライジン酸の上昇がみられたというのです。
この実験によれば、FI菌と高脂肪食という組み合わせによって、エライジン酸が産生されている可能性が示唆されたということになります。言い換えれば、FI菌は高脂肪食を摂取し、トランス脂肪酸を代謝しているということです。
さらに蛍光標識された多糖類(デキストラン)を経口投与し、その血中濃度を測定することで、どれだけ腸管から吸収されたかを調べたところ、大腸菌のみを定着させたマウスと比較して、大腸菌に加えてFI菌を定着させたマウスでは、腸管バリア機能が低下しているということが明らかになりました。
すなわち、FI菌によって産生されたエライジン酸がリーキーガットの状態を引き起こし、エライジン酸そのものも含めた様々な物質が腸から体内に漏れている可能性が示唆されたということになります。
また、肥満・糖尿病患者と健常者のそれぞれ34人の糞便中に含まれる腸内細菌を解析したところ、FI菌を保菌している人の割合が肥満・糖尿病患者では、健常者の2倍ほど高いという報告もあり、ヒトにおいてもFI菌の定着によるリスクの上昇が示唆されています。
肥満は慢性炎症の状態であるという指摘は、以前からありますが、その多くはリーキーガットによる様々な物質の腸管からの体内への流出が大きく関係している可能性も指摘されています。
従来、トランス脂肪酸は摂取することのみで健康に対して影響を及ぼすと考えられていましたが、腸内細菌が産生することで同様の状況が起きてしまう可能性が明らかになったことは、大きな驚きともいえます。
今回のように、腸内細菌はさまざまな代謝物を産生しますが、その中には、肥満や炎症などを引き起こす脂肪酸を産生し健康のリスクを高める場合があることも明らかになりました
ただ、いかなる腸内細菌も摂取すべき物質があり、始めて代謝物につながるということからすれば、あらかじめ解っている特定の腸内細菌の大好物をなるべく抑えることで、その影響力をコントロールしていくという考え方は、従来の腸活の考え方にもつながります。
FI菌の場合は、高脂肪食との相性が良いということであれば、食習慣の中で高脂肪食をコントロールすることで勢力図を変えることは不可能ではないのかもしれません。
但し、食の嗜好は腸内細菌にもコントロールされていますので、ひょっとすると「強い意志」も必要なのかもしれませんが・・・。