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2024年12月20日
腸内細菌によるストレス緩和・睡眠効果のメカニズムについて考えるⅡ

前回に引き続き、ヒトの健康に対して大きな影響を与えている腸内細菌-腸-脳相関についての研究事例をご紹介させていただきます。
徳島大学大学院医歯薬学研究部医療教育学分野の西田憲生准教授は、「ストレスそのものは悪いものではなく、ある程度のストレスは生きていくうえで必要です。」と述べた上で、一方で、過剰なストレスが持続的にかかると、心身にさまざまな症状が現れてしまうために、その改善にも睡眠は大変重要だとしています。
徳島大学ストレス制御医学教室では、ヒトのストレス状態を反映するストレスバイオマーカー(生物指標化合物)を探索する研究をしていく中で、プロバイオティクスによるストレスの軽減についてヒトに対する臨床研究がありますのでご紹介させていただきます。
この研究は3年間にわたり、徳島大学医学部の学生延べ140人に対して、4年生から5年生に進級する際に実施される学術試験の8週間前から試験直後まで、プロバイオティクスであるL.カゼイ・シロタ株を含有する飲料摂取群と、プラセボ飲料摂取群とに分けて実施した、二重盲検プラセボ対照平行群間による比較試験です。
使用した、ストレスバイオマーカーとしては、ストレスがかかると分泌量が増える、唾液に含まれる副腎皮質ホルモンのコルチゾール。
そして、睡眠の評価については、主観的指標に「OSA睡眠調査票MA版」という起床時に16の質問に答えるアンケートを採用したとともに、客観的指標の簡易睡眠脳波計による脳波の実測データを用いて、覚醒している状態から眠りに入るまでの時間である「睡眠潜時」、「深睡眠時間」、「デルタパワー」の3つの項目でのデータの解析を行いました。
この3つの指標に関しては、1つ目の、睡眠潜時は就寝までの時間を表わし、寝つきの良さの指標として使用しています。
2番目の深睡眠時間は浅い眠りのレム睡眠に対して、深い眠りのノンレム睡眠時間で、脳を冷却してしっかりと休ませるための働きに関する指標になります。
3番目のデルタパワーについては、深い睡眠によって、脳の休息と回復が進んでいることを表していると考えられているための大切な指標になります。
3年間にわたる実験の結果によりますと、8週間前から試験直後の継続飲用によって、ストレスホルモンと言われる唾液中のコルチゾールの上昇が、L.カゼイ・シロタ株飲料摂取群では抑制されていただけでなく、血液中においてストレスホルモンに影響を受けていると思われる遺伝子の活性度合いを調査した結果、ストレス応答遺伝子の変動も抑えられていたというのです。
更に、ストレスを伴う睡眠に関して言えば、医学部生の進級時に受ける学術試験前後の睡眠の状況について、被験者94人をL.カゼイ・シロタ株飲料摂取群と、プラセボ飲料摂取群とに分け、試験前8週間から試験後3週間まで毎日飲用してもらうという2年間にわたる調査の結果、OSA睡眠調査票MA版の解析から、L.カゼイ・シロタ株飲料摂取群では、起床時にすっきりした目覚めを示すスコアが有意に改善されており、体感としてよく眠れたことを示す睡眠時間の延長も認められました。
また、脳波計での解析結果についても、L.カゼイ・シロタ株飲料の摂取群では、睡眠潜時が延長することなく、寝つきの悪化の防止効果が明らかになったり、非飲用群が学術試験が近づくにつれて就寝直後の深い睡眠が短縮していくのに対して、優位に短縮を防ぐことができることで、試験というストレス状況下においてもぐっすりと眠れていることが確認されています。
更に、デルタパワーの値も増大し、学術試験前の勉強で脳をフル回転させたときほど、力強く深く眠れることによって脳が休息・回復できているという結果が示されたのです。
この試験の結果に対して、西田憲生准教授は、「学術試験を終えて3週間後まで調査をしていますが、L.カゼイ・シロタ株飲料摂取群では、試験後の回復が主観的指標と客観的指標を合わせた各項目のいずれも、良い傾向にありました。対してプラセボ飲料摂取群では、試験を終えてもなかなか元には戻っていません。試験に限らず、過剰なストレス下であっても、眠れることができれば、回復も早いのだと、改めて考えさせられました。」と述べており、プロバイオティクスを利用したストレスと睡眠に対する効果については、腸内細菌による、自律神経への調整の作用への関与に対して大きな関心を寄せており、「腸内細菌の環境が保たれることで、自律神経の交感神経と副交感神経のバランスが良い方向に調整され、寝つきが良くなり、深くよく眠れて、寝起きがすっきりとして、疲労回復につながるといった、良い睡眠に至る連鎖が起きると考えられます。」ともしています。
脳腸相関という言葉には、ヒトの器官である脳と腸の二つの関係性だけでなく、腸内細菌叢の状態を機序とする「腸内細菌-腸-脳相関」というアプローチは益々欠かせないモノになってくるのだと思います。