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2025年03月22日
日和見菌ってどんな菌? 日和見性感染症を考える

近年、腸内細菌の話題も多くなってきましたが、その中で善玉菌とか悪玉菌という言葉を耳にしたことがあるかと思います。このような呼び方に対して「情緒的」という形容をする専門家もいるようですが、いまや一般的な呼び方として通じるほどになってきているのが現状です。
お腹の中に居るとされる腸内細菌は約数100兆個にも上るとされていますが、この数100兆個の内訳は、ヒトに対して良い働きをすると言われる善玉菌と、悪い働きをするとされる悪玉菌のいずれか・・・ということではなく、「どっちつかず・・・」というか、「周りの状況を見渡しながら、優勢なほうに着く・・・」というような、日和見性をもった腸内細菌の割合が最も多く、健常な状態で2:7:1と、善玉菌が2割、悪玉菌が1割に対してお腹の中の殆どを占めているとされています。
この日和見性という性質を持つ中間的な菌は、善玉菌や悪玉菌に属さない腸内細菌です。腸内環境の状態によって、有害な働きをしたり、無害であったり、有益な働きをする菌と言われており、悪玉菌が優勢の腸内環境の場合、この中間的な菌が悪玉菌の味方をしたり、悪玉菌と同じ働きをするため、腸内環境が悪化し、体に害を与える可能性が上がるなど、腸内フローラのバランスによってその働きが変化するという性質があるとされています。
その性質をよく表しているのが、「日和見性感染症」です。
日和見性感染症とは、「正常の宿主に対しては病原性を発揮しない病原体が、宿主の抵抗力が弱っているときに病原性を発揮して起こる感染症」のことで、その病原微生物として、常在性のサイトメガロウイルス、 緑膿菌、カンジタ菌などが知られています。
術後感染症でよく知られる緑膿菌についても、東京農業大学生命科学部分子微生物学科の野本康二客員教授によれば、緑膿菌は通常、健常な人の腸内からは検出されないのですが、高齢者医療施設で実施した入院患者の腸内細菌解析の結果では、生息レベルは低いものの、結構な頻度で検出されているという報告もあるようです。
さらに、この緑膿菌のリスクは薬剤に対する耐性が高く、多剤耐性の緑膿菌の存在の多さとも言われています。そもそも、病原性の感染症は、口や傷口などから入り込む外来性の微生物ばかりをイメージする方も多いのかもしれませんが、常在性の腸内細菌が腸管壁を突破して体内に侵襲する、バクテリアルトランスロケーションも感染症発症の大きなリスクの一つとして考える必要があります。
そもそも、腸内環境が健全な状態では、コロナイゼーションレジスタンス機構と呼ばれる腸内細菌が病原細菌の定着や侵入を妨げる機能が備わっています。
また、リーキーガットと言われる、腸管壁を介する異物侵入を管上皮細胞の産生する粘液層や腸管上皮細胞間の紐胞間接着装置によって阻止しています。さらに、腸管に配置されている免疫システムにより、侵襲した微生物が排除される、という複合的な生体防御機構が働いています。
このような、腸管が本来持っている、3つの防御システムに不具合が起きてしまうことで、日和見性感染症のリスクも大幅に上がってしまうということを理解しておく必要があります。
菌ではありませんが、帯状疱疹の原因となるとされていますヘルペスウイルスも、健常な状態であれば、ほとんど問題ないのですが体調の変化により、免疫レベルの低下などの原因によって発症することが知られている症状の一つです。
人間も動物である以上、気温や気圧などの環境の変化によるストレスを一番受けやすいのが現実です。三寒四温と言われるこの季節だからこそ、全体の7割を占める中間的な菌の日和見性を理解したうえで、いかに味方につけるかを考えることも予防医学の実践につながるのかもしれません。