身体のチカラ › 2025年02月
2025年02月28日
プロバイオティクスは、お腹の中でどうなっているのか

健康の維持増進のために、「腸活」と積極的に取り入れるという方も多いのではないかと思います。その中でも、よく耳にするのが乳酸菌やビフィズス菌などのプロバイオティクスや、腸内細菌のエサと言われるプレバイオティクスの活用です。
その中でも、プロバイオティクスの継続的な利用については、多くの方が実践しているかと思いますが、「生きて腸まで届く・・・」というような、表現についても、疑似胃酸や疑似胆汁酸の中での生存の確認であったり、便中に摂取したプロバイオティクスが遺伝子的に確認できるかということが中心で、それぞれの消化器官の中での細菌叢の分布や代謝に関わる状況についての調査報告はほとんど行われていないのが現状です。
そのような中、内視鏡を用いたプロバイオティクスの腸管内での状態についての調査研究が弘前大学の珍田大輔准教授らとヤクルト中央研究所の共同研究によって行われた事例をご紹介させていただきます。
この事例においては、健康成人男性7名を対象にラクトバチルスパラカゼイ・シロタ株を400億以上含む発酵乳 と、ビフィドバクテリウムブレーベ・ヤクルト株 120億個以上を含む発酵乳の2種類のプロバイオティクスを含んだ飲料を飲んでいただき、小腸の一部である小腸から大腸に繋がる回腸と言われる消化管内の腸液を回収し分析するという方法によって行われました。
この二つのプロバイオティクスについては、ラクトバチルスパラカゼイ・シロタ株が酸素があってもなくても増殖できる通気嫌気性菌であることに対して、ビフィズス菌は偏性嫌気性菌で酸素を嫌う性質であることということで消化管内での分布状況は異なるとされていますので、それぞれのプロバイオティクスの単独飲用のケースと同時飲用との3つの事例についての検証を行っています。
調査の結果、乳酸菌に分類されるラクトバチルスパラカゼイ・シロタ株400億個以上を摂取したケースでは、回腸末端部の回腸液中で、摂取したプロバイオティクスが最大で9割と超える高い占有率であったことと同時に、この占有率が数時間維持されていたという結果となりました。
また、ビフィドバクテリウムブレーベ・ヤクルト株120億個以上摂取した場合についての回腸液中の占有率も、ラクトバチルスパラカゼイ・シロタ株を摂取したときほどの高水準では無かったものの6割から高い被験者で9割となり、さらに同時飲用のケースでは、占有率としての高水準と維持しただけでなく、わずかではあるものの残存生菌数の双方のプロバイオティクスにおいて単独時に対する向上が認められたのです。
プロバイオティクス株の摂取量に対する回腸末端での生残率の平均はいずれも8%程度という結果ではありましたが、生菌数として10億個以上の菌体が回腸末端まで到達したことが明らかにされたのです。
今回実験に利用した二種類のプロバイオティクスに限ってということにはなりますが、摂取後の回腸内での高い占有率が一定の時間維持されるということが解明されたということで、様々な常在菌が存在する環境において経口摂取したプロバイオティクスが回腸末端まで到達し、宿主細胞を継続的に刺激する可能性が示されたということになります。
特に回腸は、小腸の一部で、空腸に続いて大腸に続く部分になりますが、胃や十二指腸で消化された食べ物をさらに分解し、栄養素を吸収するという身体にとっても重要な働きをする器官とされています。
さらに消化吸収だけでなく、回腸下部にはパイエル板と呼ばれる病原体や有害物質を撃退する役割を担っている免疫器官も多数存在していることからすれば、摂取したプロバイオティクスによる継続的な刺激が健康の維持増進に大きな役割を果たすことについての、裏づけのひとつになるのかもしれません。
2025年02月21日
機嫌と記憶の関係を考える

かつて、ドイツの詩人ゲーテは「人間の最大の罪は不機嫌である」という言葉を残したとされていますが、普段、生活を送っている中で、平穏かつ機嫌よく過ごすということは意外に難しいものです。
特に、機嫌についての周りへの影響力は、言語化されているものとは異なり、表情やしぐさ、さらには声のトーンなどの非言語的コミュニケーションと言われる要素によって周りに伝わるものであるとともに、コミュニケーション要素の9割以上ともされている影響力の強いものであることも大きく関係しているかと思います。
そのためには、自分なりの上手なストレスリリースが大切なことは言うまでもありませんが、そのストレスリリースの手段として多くの方が使ってしまうのが、「愚痴を言う・・・」事ではないのでしょうか。
今では、昭和と揶揄されてしまう飲みにケーションといわれるコミュニケーション手段についても、多くの人が、そのような場面が嫌いなわけではなく、「お互いの愚痴の言い合い・・・」や「上司の愚痴や自慢話を聞く・・・」場面というイメージが強くなってしまったからなのではと考えれば、愚痴というストレスリリースの手法も「聞かされる立場」という視点に立てば考え直す必要があるのかもしれません。
多くの場合、会話の内容は、「悪いあの人」「可哀そうな私」「これからどうするか」の3つに分類できると言われています。
この中の前の2つは、聞かされる方の立場からすれば、ただの愚痴でしかありません。そう考えれば、「聞かされている苦しい時間」でありますし、これがビジネスなどの課題解決の場面で多くなってしまえば、生産性の低下などに直結することは誰もが容易に想像がつくものなのですが、実際にはこの2つの話題に引きずられてしまうことが多いのも現実です。
心理学博士でMP人間科学研究所代表の榎本博明によれば、「愚痴の多い人は、けっして嫌なことばかりを経験しているのではなく、良いことも経験しているのに、嫌なことばかり思い出してしまう心のクセを身につけている。」と述べています。
このような傾向は、「落ち込みやすい人」にも当てはまると考えられ、記憶との付き合い方も含めた思考の癖に大きく関わっていると考えられています。
つまり、「嫌なこと」を思い出すことで気分が落ち込み、そして気分が落ち込むと、その気分に関連する記憶を自然と検索するようになり、嫌なことばかりを思い出すという悪循環によって、更に気分が落ち込むという訳です。
落ち込みやすい人の話は、他人からしてみると「よくもまあこんなにつぎつぎと嫌なことばかり思い出すものだ・・・」とあきれるほどに、ネガティブな出来事について繰り返し反芻しているという特徴があるとされています。
その繰り返しの結果、自分は何をやってもダメだなあと自己嫌悪に陥ってしまったり、周りの人の言動に対して「責められている」と感じてしまうことで、周りに対して敵対的な態度や卑屈な態度になってしまうことにもつながり、「面倒くさい人」として映ってしまうこともあります。
確かに、「面倒な人」になってしまうきっかけは、「面倒くさがられた経験」の結果によるところが多いために、すべてをその本人のせいにすることについては、異論もあるかと思います。
とはいえ、このような経験をどのように捉えるかは、その人の意識次第とも言えます。この経験の記憶を過去のどのような記憶と紐づけるかが大きな分かれ道にもなるのです。
例えば、客観的に見てかなり悲惨な目に遭っていると思われる人が、意外に明るい出来事を語るという経験も良くあるのではないのでしょうか。そのような人は、ポジティブな気分を維持することで、その気分に合わせて、ポジティブな出来事が想起されやすいし、ポジティブな出来事が記憶に刻まれ易いという好循環のサイクルを意識して回しているともいえます。
このようなサイクルは、ポジティブな出来事を思い出すことで嫌な気分を中和する気分緩和効果と呼ばれており、心理学実験によって科学的にも実証されているというのです。
まだ起きてもいないネガティブなことを想像することで、一歩を踏み出せないということは誰にでもあると思いますが、その一歩を踏み出さないことで、別のもっと大きなネガティブな結果を引き起こすリスクを想像することが出来なくなるということはよくあることなのかもしれません。
しかしながら、その別の大きなネガティブな結果は、本人以外の多くの人には見えてることが多いため、次第に「口だけの人・・・」「変えたがらない人・・・」「なんでも反対する人・・・」というようにとしか映らないようになっていくだけでなく、そこに関わる人にも影響が及んでしまうという現実がある以上、周りからすれば「放っておいてはいけない問題」に発展してしまうケースも起きかねません。
表情フィードバックという考え方があるように、思考と表情は同期し、「機嫌」という形で可視化されていきます。他人や過去は変えられませんが、過去の記憶との付き合い方である自身の「思考の癖」であれば修正していくことは可能です。
むりやり、ポジティブに・・・という発想になる必要は無いと思いますが、「出来て当たり前・・・」から、「多くの人は、わかっていても出来ないことは、意外にも多く・・・、だからこそ、意識し続けるための工夫をしてみよう・・・」に転換していく事からスタートしていく事で「思考の癖」の修正の入口に立てるのかもしれません。
2025年02月14日
マイクロプラスチックとリーキーガット

マイクロプラスチックに関する社会的な課題については、生物への影響というような生態系に関する環境問題から、人体からの検出事例の報告が上がり続ける中で、人体の影響に関する健康リスクへと広がりつつあります。
日本国内においても、2024年2月に東京農工大学の高田秀重教授らの研究グループによって、人の血液から1000分の1ミリ以下の微細なプラスチックが検出されたという、国内では初めての研究事例の報告がなされています。
海外では、既に脳をはじめ様々な臓器からのマイクロプラスチックの検出事例が報告されており、認知症をはじめ多くの疾患との関連性に対する研究も多くなり関心の高さが伺えます。
高田秀重教授によれば、プラスチックは環境中で非常に細かくなっていくことで、「粒子を取り込んだ魚などの海洋生物の食事による摂取」、「大気中に舞っている粒子の呼吸時などの吸引」など、様々な過程を経て、体内に摂取されている可能性があると指摘しています。
更に、「プラスチックに含まれる添加剤の中には、人の健康や生殖に影響を与えるような成分が含まれている。細かくなってマイクロプラスチックになっていくと簡単に溶け出して生物に取り込まれてしまうようになる。有害性の高い物質は今までも国際条約で規制が行われてきたが、プラスチックにはまだ有害性の検討が不十分な物質が無数に含まれている。このため、使用量と生産量全体の削減が非常に大事だ」とも述べています。
世界では年間3億5300万トンあるとも指摘されるプラスチックごみですが、マイクロプラスチックということで考えれば、洗濯排水に含まれる微細な化学繊維片、走行する様々な車両にから排出される微細なタイヤ片など削減に対する課題が多いことも事実です。
その一方で、多くの生物の消化器官には外界からの異物を取り込まないための仕組みが備わっています。嘔吐や下痢などの排泄の仕組みや消化管に集中している免疫システムなどもその一つです。
一部の化学合成によって作られた人工添加物もそのような意味では、マイクロプラスチックと同様に、人体の本来持っているメカニズムによって体内に入り込み、血液中や様々な臓器に蓄積されることなく腸管バリア機能によって排泄されるという考え方もあるかと思います。
そもそも腸管のバリア機能のなかに、腸管上皮細胞の隙間を密着させるという機能があるのですが、その機能に障害がおこることで、細菌や毒素が体内に流入してしまうことがあり、この現象を「リーキーガット(腸漏れ)」と呼んでいます。
この「リーキーガット」は、皮膚や腸管などの組織に存在し、外部からの刺激や異物の侵入を防ぐ役割であるタイトジャンクション機能と言われる細胞同士を密着させる細胞接着のメカニズムによるバリア機能の不全ともいわれており、腸内細菌の乱れによっておこされているともされています。
このような、リーキーガットのような状態に陥ってしまうことで、外界からの異物であるマイクロプラスチックの体内への流入や蓄積のリスクも高まってしまうとすれば、必ずしも良いことではありません。
このようなリーキーガットに陥る要因というものは、環境問題や食品に関わる様々なっ社会的背景によって、残念ながら高まりつつあります。その一方で、腸内環境を整えるような生活習慣を心掛けることで、リーキーガットのような症状の予防の可能性も指摘されています。
これは、ちょうど宇宙空間での感性症予防について、無菌状態を追求していくことへの限界という課題に対して、宇宙飛行士の免疫システム低下への対策という視点を同時に取り入れ、その手段のひとつとしてプロバイオティクスを利用するのと同じ発想なのかもしれません。
生活を取り巻く環境によって、様々な健康リスクが存在するとともに、一つ一つの要因が複雑に絡み合っています。
そのためには、一つだけに対するアプローチだけでなく、出来ることを総合的に対処していく事が大切です。その方法のひとつに腸活を含めた腸内環境の維持向上によって健康リスクの回避につながるということであれば、今すぐにでも始められる予防手段につながるのかもしれません。
2025年02月06日
男性更年期障害と腸内細菌

歳とともに更年期障害によってQOLの低下に悩んでいる方も多いのではないでしょうか、以前であれば更年期障害と言われるような症状は、女性特有のものとされていましたが、男性にも加齢やストレスによるホルモンバランスの乱れによって、更年期障害というような症状が現れるのはご存知でしょうか。
順天堂大学医学部泌尿器科学講座の堀江重郎教授によりますと、男性の更年期障害では、テストステロンの低下により倦怠感、集中力の低下、不眠、筋力低下、体重増加などが生じ、また、精神面ではイライラ、不安感、落ち込みが見られるとされています。
女性の更年期障害は閉経という遺伝的要因が大きいとされていますが、堀江重郎教授によれば、男性の場合、社会的環境の変化やストレスによる影響が大きく、退職、転職、社会的なつながりを失うことでテストステロンの低下を招きやすくなるというのです。
また、症状についても個人差が大きく、まったく症状がない方もいれば生活習慣病やうつ症状などにつながってしまうようなケースもあるようなので、男性とはいえこのようなことが起こりうるということを認識しておくことは大切かと思います。
また、動物実験の段階なので直接的な因果関係については明らかではないものの、一部の腸内細菌がテストステロンの分泌に関与しているという報告もありますので、腸内環境に対するアプローチも効果的な予防対策のひとつになる可能性もあると考えられています。
現在の研究においては、様々な腸内細菌が産生するポストバイオティクスと呼ばれる代謝物質に注目が集まりつつあります。そして代謝された物質が身体のあらゆる機能を支えていたり、恒常性に寄与している可能性についても様々な研究が行われています。
その様々な機能のひとつにホルモン物質の生成に関することもあるとされていることが、男性の更年期障害に対する効果と言われているのだと思います。
また、有酸素運動や筋力トレーニングなどの運動を取り入れるような生活習慣の改善によって、テストステロンの自然な分泌を促すことも有効な手段のひとつともされています。
とはいえ、社会的な要因が大きいとされていることからすれば、趣味やコミュニティへの参加がストレス軽減につながり、ホルモンバランスの維持には効果的であると考えることも出来ます。
そして、社会的つながり=仕事という状態だけではなく、早いうちから地域コミュニティとの関係づくりや趣味などを通じた仕事以外の人間関係を大切にすることで、長い意味での自身の孤立につながらないような準備も必要なのかもしれません。
男性の場合は、自分の身の回りのことが出来ないことに対して無関心な方も多い傾向があると言われています。
その状態が、仕事中心の生活によって「偏った価値観でも不自由せず、周りの人たちが何とかしてくれる・・・という想い」からくるものだったとすれば、早いうちから、お腹の中の多様性のみならず、人間関係の多様性を意識しながら準備していく事も男性にとっての更年期障害の予防につながるのではないのでしょうか。