2017年11月17日
乳酸菌研究のいま・・・(Ⅸ) 食べ物と腸内フローラ

ヒトの腸内フローラと健康の維持増進については、近年様々な研究がなされており、「おなかの健康」というだけにとどまらず、脳を中心としてメンタルへの影響から、アレルギーなどの免疫系の症状、更に糖尿病や心疾患、脳卒中などの非感染性疾患との関わりなど様々な研究がなされています。
そんな中、多くの方が望むのが、「どうすれば、より良い腸内フローラになるのだろうか・・・」というある種の「解答」なのだと思います。
先日の、第26回腸内フローラシンポジウムの中でも、そのことについての研究やディスカッションがなされましたが、前出のニューヨーク大学のMartin J.Blaser博士によりますと、「良い腸内フローラ・・・」と言える、菌株の種類やその構成について「明確な解答」といえるようなものは現段階では持っていないと述べています。
実際に、腸内フローラを構成する、菌株の種類についても、ここ数年で100種類と言っていたのが数100種類と言われるようになり、菌の数についても100兆個が数100兆個となるということからしても、「次から次へと、新しいことが分かってきている・・・」という学問的にも本格的な創成期に入った状態なのかもしれないという感覚を持つ人も少なくないのだと思います。
その中でも、人間が生まれてからどのような経過を経て、自分自身の腸内フローラを獲得していくのかは、多くの研究者の関心ごとであります。
ヤクルト中央研究所の松木隆弘氏によりますと、乳児の腸内フローラは、「誕生直後に形成が始まって短期間うちにその中身は大きく変化する」としながらも、「通常分娩や帝王切開などの出産様式や母乳、ミルクなどの摂取ミルクの影響を受ける」、「個人差が大きい」、「その時期の形成が乳時期だけでなく、成長後の状態にも影響をしている」など様々な事が明らかになりつつあるようです。
また、九州大学大学院農学研究室の中山二郎准教授は、アジアの5つの国と地域10都市の小学児童303名の腸内フローラを解析し、食習慣と腸内フローラとの関係についての研究を行っています。
ここでは、インドネシア、タイ、中国、台湾、日本で検証を行っていく結果、地域や食習慣、文化などによって特徴的な優位差がみられたということです。
例えば、インドネシアのジャカルタとバリ、タイのコンケンの児童にはPrevotellaceae科の腸内細菌が多く存在しているのに対して、日本などの都市化が進んでいるところは、他の種類の細菌類が優勢であるなど、食文化を含む様々な要因で腸内フローラの構成が異なるのでは・・・ということが示唆されています。
このPrevotellaceae科の腸内細菌は、フィンランドヘルシンキ大学のフィリップ・スカーパジャン博士らが、パーキンソン病との関わりを指摘している菌株で、罹患していない人たちのグループと比較して、患者のグループの方が78%と大きく減少していることが確認されている菌でもあります。
更に興味深いのは、フィリピンの事例でオルモックとバイバイというわずか60km程しか離れていない、地域に於いて、先ほどのPrevotellaceae科の腸内細菌の優勢度合いが異なる結果が得られたということです。この二つの地域の大きな違いは近代化であり、バイバイの児童の脂質の摂取割合が18.1%であったのに対して、オルモックの児童の摂取割合が27.2%にも上っており、これは、ファストフードや肉、菓子類の消費と高い相関関係にあるということもわかっています。
このことは、単に脂肪の摂りすぎと云うだけでなく、穀類を消化するのに必要なアミラーゼの関連する遺伝子がPrevotellaceae科の腸内細菌に多いなど、食習慣から来る様々な人間の代謝のシステムにまで関係している可能性が出てきたということです。
「善玉菌の喜ぶエサ・・・」として、注目されている難消化性のオリゴ糖や食物繊維を一緒に良い菌を入れるというシンバイオティクスの考え方が、「目指すべき腸内フローラ」への近道かもしれません。