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2018年06月03日

「炎症」と腸エコシステム

「炎症」と腸エコシステム


 「腸エコシステム」という言葉を始めて聞く人も多いと思いますが、腸内にある菌同士の相互作用や宿主(人間を含めた腸内細菌を持つ動物自身)との相互作用によって、腸管免疫系だけではなく、神経系、内分泌系の細胞が腸内フローラを形成する腸内細菌群と密接に関係していることが分かってきました。

 その様子が、いわゆる「生態系」の一つのような複雑なネットワークを構成しているという概念で捉えたのが「腸エコシステム」と言われています。

 人間を含む動物の腸内に常在する菌は、ファーミキューティス門、バクテロイディス門、方線菌門、プロテオバクテリア門の4種類だけと言われています。これは、進化する過程で、多くの腸内細菌の中から選ばれ、且つ共生関係を築いてきたあらわれであると考えられています。

 このような腸エコシステム概念のベースになっているさまざまな生活習慣病と腸内フローラとの相関関係が、色々な研究によって明らかになってきたこともあります。
 肥満症では、ファーミキューティス門が増えたりとか、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患等では、ファーミキューティス門のクロストリジウム属が減り、バクテロイディス門の大腸菌を含む腸内細菌科が増えていることなど、腸内細菌の多様性が減ることが分かってきています。

 ここに挙げた2つの事例もそうですが、基本的に炎症に関わる疾患なります。肥満に関しては、脂肪細胞、炎症性腸疾患については、まさに腸の炎症になります。

 そこで特に注目されているのが、理化学研究所の本田賢也博士らによって発見されたTreg(大腸制御性T細胞)です。このTreg細胞は暴走してしまう免疫細胞を抑制する作用があり、アレルギーを始め炎症性疾患に対するある意味、救世主の様な存在とも言われています。

 理化学研究所生命医科学研究センター粘膜システム研究チームの大野博司氏によりますと、腸内細菌の代謝物である様々な酸を中心にTreg体内での量や働きと関係しているということが解って来たようです。
 腸内細菌で良く知られているのは、乳酸菌やビフィズス菌が代謝する乳酸や酢酸ですが、そのほかにも、様々な腸内常在菌によって代謝されるプロビオン酸、ロイシン、イソロイシン、γ-アミノ酪酸(Gaba)など多くの代謝物があるのです。その中でも酪酸がTregに対して非常に顕著な誘導能があることも指摘されています。

 マウスによる実験などでも、酪酸を含む餌を与えることによって大腸内のTregが増加して腸炎の症状が軽減するなどの報告もあるようです。

 前出の大野氏は、腸エコシステムという概念からすると「腸内フローラは、かなり自己に近い存在である・・・」と述べています。

 その一番の理由として、自身の身体の生体としての恒常性維持という仕組みに対して、腸内細菌の代謝物がプラスに働くようになっていること・・・も含めて、きわめて密接な共生関係が成り立っているからだと考えられているのです。

 さらに近年の研究では、腸内フローラの撹乱によって、肥満になりやすいというような結果も出ているそうで、低濃度の抗生物質の長期間曝露によっての影響についても指摘されています。
 この抗生物質の結果については、治療による投与ということの想定ではなく、家畜や農産物に対して使用され、食肉や土壌などに残留した抗生物質による継続的な曝露というもの・・・ということなので、この結果からしても、腸内フローラというのは、身体への影響も多いのと同時に、相当デリケートであるという考え方も必要なのかも知れません。

 また、慢性炎症である肥満から来ると言われて言います、Ⅰ型糖尿病についてはマウスの実験でメスの方が発症しやすいということも解っています。これは、マウスでは性ホルモンが腸内フローラに影響を与えやすいという仮説をもとに研究が進んでいますが、先ほどの「腸内フローラは自己に近い存在・・・」ということからしたときに、腸内フローラに男性型、女性型というものがあり、その型が影響を受けているという考え方もあるようです。

 いずれにしても、体内で起きている様々な炎症がTregという物質と関係し、さらにそのTregの機能が腸内細菌発の身体中にネットワークに関係している・・・ということであれば、ますます「おなかは大切・・・」な存在なのですね。



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Posted by toyohiko at 10:00│Comments(0)身体のしくみ
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