2018年06月16日
キレイと微生物との関係性

「キレイにする・・・」と言えば、頭に浮かぶのが掃除、除菌、消毒・・・など様々な言葉があると思います。特に、食品衛生や公衆衛生の観点からすれば、人体に悪い影響を与える細菌やウィルスがいない状態にするということが大切なことになります。
食中毒に関して言えば、食中毒菌を「付けない・増やさない」というのが大原則になりますので、そこにおける微生物の存在というのは「いけないもの・・・」ということになります。
私たちは、抗生物質や抗菌剤など様々な微生物を殺菌するためのツールによって、私たちは様々なメリットを享受してきました。
このように、微生物をコントロールして人々の生活の向上に役立てるための学問分野を微生物制御工学を呼ぶそうで、「殺菌」「抑制」「増殖」「除菌」「遮断」の5つの方法を基本として組み立てられているのだそうです。
生活していく中で、微生物の影響を受けるのは食に関わる部分だけではありません。1990年には、米国のスペースシャトルの排水系ステンレスパイプラインが微生物浸食によって水漏れが発生するという事故がありましたが、金属の腐食と微生物という一見関係なさそうに見えても、微生物によって起きているというようなこともあります。
また、戦後の復興期に化膿防止や悪臭防止のために衛生加工線維の技術も出てきました。この技術に於いても、抗菌成分による毒性と皮膚刺激性との両面から皮膚障害につながるなど様々な紆余曲折もあったようです。
また、微生物の殺菌抑制のための残留毒性のヒトの健康への影響に関する懸念や、抗生物質の多用による耐性菌の出現が問題になるなど、殺菌や消毒で微生物を制御できる反面、その効果を越えて人間の生活に害を及ぼす一面もクローズアップされています。
大阪府立大学研究推進機構放射線研究センターの古田雅一氏によりますと、ボツリヌス菌などのグラム陽性桿菌の一部では、熱、高圧処理、薬剤、放射線などの様々な抗菌処理に対して非常に高い抵抗性を示すということが分かっており、いわゆるイタチごっこのような現状もあるようです。
肉眼では見えないミクロの世界をコントロールすることは容易ではないということも現実としてある一方、人間は、消化器官、口腔内、鼻腔内、皮膚に至るまで外界とつながっている全てにおいて、微生物との共生というシステムによって、身体の恒常性の維持を担っていることも事実です。
「衛生仮説」という言葉にあるように、抗菌や除菌への過信や行き過ぎた清潔志向に疑問を感じ始めている方々も出てきています。
微生物のバランスは、腸内細菌叢や口腔内菌叢、皮膚常在菌叢などの人間の身体に関わるところだけではなく、浄化槽や排水処理施設を始め環境中のあらゆるもののバランスを取っている非常に重要な存在であるということも頭に入れておかなければなりません。
自身の周りの衛生にとらわれ過ぎて、家庭で殺菌剤や消毒剤などを必要以上に使用することで、家庭排水を通じて環境中に排出することで、河川や海洋中に至るまで大きな影響を与えることも懸念されています。水環境の汚染、生態系の崩壊、農産物や漁獲高への影響、耐性菌の本格的な出現など・・・。
現在でも、農産物などに利用する微量の抗生物質の恒常的使用が、人間の慢性炎症につながり、肥満や糖尿病などの生活習慣病につながっている可能性についての研究も進んできています。
「キレイ」ということばと、目に見えない微生物をコントロールする意味や、関わり方・・・、もっと広い視点で考えていかなければいけないのかもしれません。