2018年11月03日
腸内細菌とインフルエンザ

寒い季節になってきますと、ウィルス性の感染症が気になりだす方も多いと思います。特に上気道感染症の代表でもあるインフルエンザや消化器系感染症であるノロウィルス感染症などについては多くの方が関心を持つ感染症です。
そのような中、腸内細菌とインフルエンザの関係性についての最近の研究報告がありますのでご紹介させていただきます。
東京大学医科学研究所の一戸猛志准教授によりますと、マウスの実験により、抗生物質で腸内細菌を減らしたマウスが、インフルエンザウィルスに対する免疫応答のレベルが非常に弱くなるという研究報告を2011年に世界で初めて行いました。
その報告によると、インフルエンザの重症化をプロバイオティクスやプレバイオティクスなどを始め様々な食品成分によって改善できる可能性や、現在日本で臨床試験段階にある経鼻投与型インフルエンザワクチンの効果を高める等の今後の研究の基礎的な知見につながる可能性も示唆しています。
このことは、冬期に市販の総合感冒薬も含め、いわゆる風邪の症状に対する薬の処方の多さと、インフルエンザの罹患状況とのジレンマのような状況も垣間見ることができます。
実際に、便秘薬の売り上げが一倍多いのも12月を中心とした冬であることの、仮説の一つが、風邪の症状が増えることによる抗生物質利用者の増加とされていることと考えても腸内細菌と感染症との深い関わりが見えてきます。
一戸准教授は、その後さらに腸内細菌と肺などの他の器官のとの関連性や低温などの環境変化に対する免疫応答に関する実験を行いました。
この低温下での実験は、インフルエンザの罹患率が気温と湿度との相関関係が高いということからしても、その相関関係と身体の変化やそのメカニズムについては大変興味のある事言えると思います。
研究では、6℃の低温環境下でマウスを31日間飼育した場合において、腸内フローラの変化が見られたと言うのです。その変化によって、褐色脂肪細胞や小腸上皮が増殖し、低温環境への適応能力を身につける事が報告されている一方で、36℃で飼育したマウスのT細胞の免疫応答が優位に低下したなど、外気温の環境変化に対して、腸内細菌叢の変化が大きく関わるというプロセスを経て、感染症などに対する免疫応答のレベルを対応していくというようなメカニズムが示唆されたということになります。
逆を言えば、感染症などに関する免疫応答は、身体が対応するためのある程度の期間が必要であり、急な気温の変化に対してマイナスの影響を受けやすいということになるのかもしれません。
また、抗生物質を投与して、腸内細菌を死滅させたマウスにインフルエンザを感染させ、感染後の肺のT細胞の免疫応答が低下し、マウスの生存率低下にもつながるという結果も報告されているようです。
今回は、インフルエンザという特定の上気道感染症のみをクローズアップした研究になりますが、罹患状況に対して、腸内細菌叢の乱れがウィルスなどの外敵に対する免疫応答の仕組みと大きな関わりを持つということがあらためて示唆されたということになりそうです。
「冬の感染症対策・・・」多くの人にとって、関心のあることだと思いますが、腸内環境を整える事が大きな予防の一つということが言えるのかもしれません。
Posted by toyohiko at 16:57│Comments(0)
│身体のしくみ