2018年12月29日
腸内細菌との共生を考える「衛生仮説から旧友仮説へ」

近年、アレルギー疾患を代表とする自己免疫疾患で悩む方が増え続けています。その原因と考えられている概念のひとつが「衛生仮説」というものです。
「衛生仮説」とは、公衆衛生が発達し、日常環境において「除菌」などの行為も一般的になることで、様々な微生物と接する機会が無くなることで、免疫システムの攻撃対象が本来攻撃しないはずの抗原を攻撃してしまい、様々な炎症反応などが起きてしまうという考え方です。
その仮説を裏付けるような様々な研究結果も発表されています。
例えば、世界各国で寄生虫がいるような生活をしている人の方が、アトピー性皮膚炎や喘息、花粉症などの症状の人が少ないとか、さらには、自閉症や総合失調症のような精神疾患と腸内細菌との関係において菌の多様性についての報告もあります。
さらに、上気道感染や消化器系の感染症を引き起こす様々な細菌やウィルスに関していえば、人が集団で生活をするようになってから登場した菌であるということも云われており、遺伝子の進化という立場から考えると、比較的「新しい菌」ということになるそうなのです。
このような、免疫と微生物に関する様々な考察の中で、「菌に触れる機会が減って、獲得免疫を得る機会が少なくなる・・・」という衛生仮説の考え方だけではある種の矛盾が生じているという議論も始まっているようです。
人間と微生物の関係については、まだまた判らないことが多いというのが現状の様で、以前は、母乳に含まれているのは乳としての栄養素と考えられおり、その中でもオリゴ糖が唯一、微生物に関係する成分とされており、ビフィズス菌や乳酸菌などは入っていないというのが通説とされていました。
ところが、現在では母乳の中にはIgA等の抗体や乳酸菌やビフィズス菌が含まれているということが次第に判ってきたようです。
そもそも、生まれたばかりの乳児にはオリゴ糖の分解酵素が無く、腸内細菌がいなくては母乳にオリゴ糖が含まれている合理性はない等のということになります。また、母乳にも子どもを守るシステムが備わっているという視点から考えても、今まで云われていたこととは異なった説が有力になっています。
このようなことも含めて、ただ単に微生物の存在が無くなってきたから免疫システムのバランスが崩れたというだけでなく、人類史上長い時間をかけて付き合ってきた長い歴史に基づいたもう少し複雑なメカニズムによって現在の状況にあるというのが「旧友仮説」なのだそうです。
この旧友仮説というのは、微生物と会う機会が少なくなったというのは同じなのですが、ただ足りないというだけでなく、そもそも菌との共生が前提の上で、どの菌と共生し、その菌を排除するかを模索しながら共生の仕方を進化させる共進化という形をとっているという考え方をベースにしています。
すなわち、ただ菌が少なくなったということではなく、人類にとって必要な菌が少なくなり共生のメカニズムが崩れてしまったという事のようです。
この共生のメカニズムは、免疫システムだけでなく、恒常性(ホメヲスタシス)にも関係するような、人間にとって欠かせない、生体メカニズムの一つとして腸内細菌との共生を考える必要があるのかもしれません。
脊椎を獲得する以前の原始的な生物には、腸管内にキチンという物質をつくり、腸内細菌等に対してバリア機能を有していたそうです。現存する種としては、ホヤや真骨魚に分類されるニジマスなどが、それに分類されるます。
そうした進化の過程を考えても、多くの生物がキチンという物質を進化の過程で必要に応じて捨てたとすれば、多くの生物は、そもそも尿内細菌と共生するという選択を自らするという過程を経ながら進化してきているのかもしれません。
Posted by toyohiko at 15:31│Comments(0)
│身体のしくみ