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2019年01月11日

肥満と腸内細菌と短鎖脂肪酸

肥満と腸内細菌と短鎖脂肪酸


 肥満と言えば、「万病のもと・・・」とも言われ、健康を維持していくために、もっとも必要なこととして多くの方が意識している事の一つです。また、「わかっていても、なかなか解消できない・・・」ことの筆頭に挙げられるものも「肥満」の特徴であったりします。

 そのような中、近年「肥満」と腸内細菌との関係について多くの関心が集まっていることをご存じの方も多いかと思います。その、肥満と腸内細菌を関係づけるのが腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸なのです。

 今回は、その肥満と短鎖脂肪酸・・・そして、肥満を解消するために活躍する腸内細菌について考えていきたいと思います。

 そのそも、肥満の定義は、日本ではBMI25以上とされており、身長170cmの場合に体重が72.2kg以上あると肥満ということになります。
2016年の国民栄養調査によりますと、日本人の場合、肥満の割合が男性31.3%、女性20.6%となりますが、実は、このBMI25というのはWHOの基準とは異なっているのです。
 WHOでは、肥満の基準をBMI30(身長170cmで86.7kg)としており、このBMI30の基準で考えると世界の平均が18.9%に対して4.5%で、世界166位という好成績になります。

 肥満は、脂肪細胞が慢性炎症の事態を招くことになります。その結果、脂肪細胞が本来持っている生理活性機能が低下してしまうのです。
 例えば、血糖値を上げると言われるTNF-αが過剰に分泌し、血糖値を下げると言われるアディポネクチンの減少を招いたり、血圧についてもアンジオテンシノーゲンという上昇に関わる物質が多くなり過剰になり、下げる作用のアディポネクチンが低下してしまうようなのです。

 また、PAI-1という血液を凝固させる働きのある物質も増えることが分かっており、血液の凝固し易い状況にあることで、血栓ができやすくなり循環器系の疾患にもつながり、心筋梗塞や脳梗塞にリスクが高まります。

 さらに、食生活だけではなく、ストレスや不規則な生活によって交感神経の高まりによって基礎代謝の変化や過食を招き太りやすくなったり、過剰な脂肪が食欲を抑える働きをするレプチンの作用を低下させることが分かっています。また、寝不足や寝過ぎによってもレプチンは減少し、食欲を増進するグレリンが増えることも明らかになってきているようです。

 しかしながら、東アジアも含めた日本人は軽度の肥満でも様々な疾患につながりやすいということが分かっているために、肥満の基準が厳しくなっており、アメリカ人と比べると、「日本人のBMI25がアメリカ人のBMI30に相当する・・・」とも言われているそうです。

 2000年に吉池信男etalにて実施された、「肥満研究」によると、日本人の場合、BMI22の人と比べた場合に、BMI25になることで、高血圧、高中性脂肪、低HDLコレステロールというような症状が約2倍に増えることが明らかにされました。
 また、日本人は内臓脂肪が溜まりやすいことが統計上分かっており、内臓脂肪が色々な疾患を誘発する可能性が懸念されているのです。

 内臓脂肪は溜まりやすいが、減らしやすという特徴もあるため、いかに効果的に内臓脂肪を減らすかが重要になってきます。このより効果的・・・という考え方の一つに腸内細菌の働きを促して、短鎖脂肪酸を活用するという考え方が次第に広がっているのです。この考え方を端的に表現しているのが、いわゆる「やせ菌」ということになるのです。

 慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科専任講師入江潤一郎氏によりますと、日本人の短鎖脂肪酸をつくる腸内細菌群の割合が、やせている人で5.9%、肥満の人で3.9%という報告があり、肥満の人は短鎖脂肪酸をつくる腸内細菌が少ないことが分かっているそうです。

 短鎖脂肪酸とは、脂肪酸の中でも基本的な分子構造である炭素の数が6個以下のものを指し、具体的には酢酸、プロピオン酸、酪酸などになります。また、乳酸やコハク酸なども短鎖脂肪酸には含めないと見解はあるものの酢酸や酢酸などに近い働きをするケースもあるそうです。
 この短鎖脂肪酸によりGLP-1などのホルモンが分泌され胃腸の動きが緩やかになる。そのため満腹感が増すことで食事の量が減ると考えられてるようなのです。

 この短鎖脂肪酸は、ヒトの大腸において、消化されにくい食物繊維やオリゴ糖を腸内細菌が発酵することにより産生されるので、短鎖脂肪酸を産生する腸内細菌が少ないからと言ってあきらめる必要は無いということです。

 いいかえれば、食物繊維やオリゴ糖を積極的に摂取することでそれらの腸内細菌が活性化し、結果的により多くの短鎖脂肪酸の効果を享受することができるというわけです。

 肥満と腸内細菌との関係・・・一昔前は、「食物繊維はダイエットに良い・・・」というキーワードは、お腹の中のお掃除・・・というニュアンスだったですが、実は、腸内細菌の働きを促すためだったかもしれませんね。




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Posted by toyohiko at 15:34│Comments(0)身体のしくみ
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