2019年01月19日
宇宙から帰ってきた乳酸菌

乳酸菌と宇宙という一見、何ら関係なさそうな二つについての研究が現在進んでいます。その大きな理由の一つは、宇宙に滞在しているときの健康への影響についての様々な懸念があるからです。
宇宙空間では地球上のように大気で囲まれ様々な放射線から保護されているというような状況ではありません。また、重力の影響もふくめ身体に複合的なストレスがかかりやすい状態であるために免疫細胞の機能低下や免疫バランス変化も多く、免疫機能の低下をまねくことが分かっています。
現状、一回当たり半年程度の宇宙滞在では臨床上問題になるような症状は少ないと考えられているようですが、今後多くの人たちが宇宙空間を夢見るようになり、長期滞在ということも視野に入るようになった時にはリスクとして考えられるということになります。
そんな中、免疫低下リスク対策として考えられたのが乳酸菌の利用です。
JAXA(宇宙航空研究開発機構)は、国際宇宙ステーション「きぼう」の日本実験棟内で1ヶ月間保管したL.カゼイ・シロタ株を解析することで、プロバイオティクスによる、宇宙空間でのパイロットも含めた人のQOLの維持効果の可能性について実験を行ったのです。
その結果が、英国の科学雑誌Natureの姉妹誌であるオンラインジャーナルScientific Reportにて公開されましたので紹介させていただきます。
今回の実験では、国際宇宙ステーションで保管されたL.カゼイ・シロタ株が地上で保管されていたものとどのような変化が認められたかということに注目して行われました。
この実験にともない、飲用を想定した摂取実験用につくられたカプセルに凍結乾燥したプロバイオティクスを入れたものを用意しました。
まず一番大切な事は、環境温度や微重力、宇宙放射線の影響で乳酸菌そのものが死滅してしまわないか・・・という点です。
実験の結果としては、宇宙空間という非常に過酷な状況に対しても、L.カゼイ・シロタ株は生きた状態であることが確認され、さらに菌の発酵状態や遺伝子情報の解析の結果とを地上保管品を比較しても、差は無くL.カゼイ・シロタ株のプロバイオティクスとしての特性は損なわれることは無く維持されているという結果となりました。
また、今回もっとも注目された、免疫低下リスクへの対応の可能性ですが、免疫細胞活性化の指標となるインターロイキン-12(IL-12)の産生誘導を調べたところ、今まで、地上という環境下でおこなわれた結果との違いは認められず同様の結果が認められるということが示唆されました。
今回の実験の結果は、近い将来来るであろう、「多くの人が、宇宙と行き来する・・・」そんな夢の世界の実現に向けての大きな一歩なのかもしれません。
また、その一方で、宇宙空間のような過酷な環境と呼ばれる環境下でも「宇宙から生きて帰ってきた乳酸菌」として、「普段の私たちの健康増進に更なる1ページを刻んでくれる・・・」という大きな期待も持てるような気がします。