2019年02月09日
両親の遺伝子の対立という考え方からみる更年期障害

「おばあさん仮説」という言葉を聞いたことがありますでしょうか・・・?
生物にとって、生殖能力を終えて、なお生き続けるという種は非常に少ないのだそうです。
生物学的な視点で見たときに、「おばあさん」の定義は、「孫がいる・・・」ということではなく、月経が終わり「閉経する」ということになりますが、この閉経という現象があるのは、人間と人間に近いサルだけに確認されており、サルの中でもキツネザルやメガネザルなど原猿と呼ばれるサルの原型に近い種では起こらない現象なのだそうです。
総合研究大学院大学先導科学研究所講師の大槻久氏によりますと、人間の進化の過渡期においては、そもそも人間は死ぬまで出産を行っており、その後「月経を持っている個体ともっていない個体が存在して、持っていない方が不利だった・・・」のではと考えられているそうです。
その理由の一つが、人間のように生まれてから成人としての能力を身につけるの非常に長い年月を要する生物にとっては、自分がいくら子どもを産んでも「育てる」という重要なプロセスを無視してより多くの遺伝子を残すことが優位に働かないということになります。
つまり、自分の子どもの子育てを手伝い、孫の成長や生存に貢献する方がより有利であるということなのです。
その考えかたが、いわゆる「おばあさん仮説」ということになります。
しかし、その根拠については近年様々な研究もおこなわれています。
たとえば、通称、原住民と呼ばれるような狩猟採集民族を含めた世界中の45の社会集団の対象に家族構成によって子どもの生存にどのような影響を及ばすかという調査研究です。
その研究によりますと、母親の「子どもの生存率を上昇させる効果」を100とした場合に、父親が約30に対して、母方の祖母が約70、父方の祖母が約50という結果となりました。
また、それぞれの属性に関して「子どもの生存率を低下させる効果」という項目を加味すると、父親が、約5、母方の祖母が約10、父方の祖母が約15とプラスマイナスで、母親の100に対して、母親の祖母が約60、父親の祖母が35、父親が約25という結果となり、おばあちゃんの子どもの生存率に対してのプラスの影響は非常に大きいということになります。
この研究は、乳児の死亡率が退化した社会においては実感が薄いかもしれませんが、先ほども言いましたように、そもそも人間が死ぬまで出産が可能であったという前提で、進化の過程でより有利な方法の一つとして閉経というものが出来たという説明がつくということになります。
この現象をさらに、遺伝子の働きに着目して解明しようとしている方たちもいます。
そもそも、遺伝子の働きは父親由来と母親由来とでは働きが違うということが解っているそうです。
たとえば、父親由来の遺伝子は妊娠中の胎児により多くの栄養を与えるために、母親の血糖値を上昇させるためのホルモンの産生を促すことが解っているそうで、このことは、妊娠時の母親の糖尿病のリスクを引き上げ、実際に妊娠糖尿病という症状もあります。
つまり、このことは父親と母親の遺伝子の利害が一致しないために、胎児により優位に作用することで、母体のリスクを誘導してしまうという現象です。
「この考え方で、更年期障害も説明がつくのでは・・・?」というのが、前出の大槻氏の仮説です。
つまり、父親由来の遺伝子が考える閉経期と母親由来の遺伝子が考える閉経期のずれが発生してしまうことで、女性ホルモンの分泌量の大きな変動を招き、身体の不調を招いてしまうというのです。
つまり、父親由来の遺伝子は閉経を促し、母親由来の遺伝子は月経の継続を促すというのです。これは、母親由来のGNAS1の突然変異が起きたときだけ40歳未満の閉経という症状によって裏付けられていると言えるそうです。
従来、更年期障害は老化によって現れると考えられていましたが、どうやら綿密な遺伝子同士の駆け引きによっておきているということが示唆され始めています。
このようなメカニズムの解明によって、閉経期のQOLの低下への具体的な方法が見つかるといいですね。
Posted by toyohiko at 23:01│Comments(0)
│身体のしくみ