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2019年03月01日

ヒトの進化と病気との関係を考える

ヒトの進化と病気との関係を考える


 「進化」という言葉を聞きますと、当然のことのように「以前より、良くなる・・・」というイメージを持ってしまうのですが、「生物」ことヒトについてはどうやらその限りでは無い・・・ということが沢山あるようなのです。

 京都大学の元総長でもある井村裕夫名誉教授によりますと、「進化というのは、理想的生物という目指すべき設計図のようなものがあり、その設計図に従って進んできているのではなく、いわゆるその場しのぎに対応した結果・・・」ということなのでは・・・ということのようです。

 その「その場しのぎ」の積み重ねゆえの矛盾も沢山出来てしまった・・・というのです。

 つまり、一つの機能やその機能を発揮するための構造を獲得し、環境に対応することによって、その代償として不具合が生じるというようなものなのだそうです。

 例えば、高齢者に多い疾病として良く知られる誤嚥性肺炎ですが、霊長類のチンパンジーには気道と食道を仕分ける咽頭蓋と呼ばれる弁のようなものが高いことによって、「誤嚥」という症状があまり出ることは無いそうです。

 しかし、ヒトの場合は二足歩行に加えて、言葉を使ってコミュニケーションをするようになった過程で、咽頭蓋が下がっています。
 これは、咽頭蓋が高いことで言葉を発しにくいためだと考えられていますが、この高さの違いが、食べ物を食べたときの「誤嚥」を引き起こしやすい状態になったと考えられているのです。

 もちろん、高齢者でなくても「むせる・・・」という症状が出やすいのは、言葉によるコミュニケーションを得た代償とも言えるのかもしれないということです。

 また、多くの哺乳類は、読んで字のごとく母乳によって育ちます。その一方で、多くの哺乳類は母乳の必要が無くなるにつれて、母乳に含まれる「乳糖」を分解する酵素を出す機能が不活性化します。

 これがいわゆる、「牛乳を飲むと、お腹がごろごろする・・・」という症状の乳糖不耐症と呼ばれる症状です。しかし、一部の地域では、他の哺乳類の乳を栄養源として摂取する習慣がある地域に於いては、その環境に適応するために酵素を持ち続けているヒトが多いということもあるようです。

 また、「痛風」についても進化と大きな関係があるようで、痛風のもとになると言われる尿酸ですが、多くの生物ではさらに、尿素やアンモニアに分解して排泄するというのが普通とされていますが、ヒトや一部の霊長類にはこの機能を失ったために、「痛風」という病気に罹るようになったしまったのだそうです。

 尿酸を分解する能力を失ったもっとも有力な説とそしては、尿酸そのものが強い抗酸化作用を持っていることによるとされています。つまり、ヒトを中心とした霊長類は、尿酸の抗酸化作用を選択することで生存に有利になると判断することで、「痛風」という結果をもたらしたということになります。

 何事も、「良いとこ取りばかり、というわけにはいかない・・・」ということはありますが、人間の身体にも進化の過程で、様々なトレードオフをしているということがたくさんあるのかもしれません。



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Posted by toyohiko at 16:46│Comments(0)身体のしくみ
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