2019年05月31日
身体の中のヒトの部分は10%

数年前に、イギリスの進化生物学者であるアランナ・コリンの著書である「10%HUMAN」という本が話題になりました。この本は日本語でも翻訳され、「あなたの体は9割が細菌 犠牲物の生態系が崩れはじめた」というタイトルで出版されています。
この本に、ヒトの遺伝子に関わる興味深い内容が記されていましたので紹介させていただきます。
ヒトの遺伝子に関わる様々な学術的な問題は、研究が進んでいくうちに思いもよらない結果という事も含めて様々なことが判り始めてきました。その一番のトピックスがヒトの遺伝子の数です。
2000年にヒトゲノムに関する様々なことが解明されるときに研究者の中で、ヒトの遺伝子に関する数を予想しあったという事があったようです。
当時、マウスの遺伝子はすでに判っていて23,000個、植物である小麦の遺伝子が26,000個、発生生物学のモデル生物である線虫の遺伝子が20,500個という事から予想し、ヒトの遺伝子ははるかに多いという予想を多くの研究者がしたそうです。
その結果は、といいますと多くの予想を覆し線虫とほぼ同じ数の21,000個という結果になったという事なのです。こうして考えると、ヒトゲノムのサイズは植物である稲の半分しかなく、ミジンコの31,000個をも下回る結果になったことに多くの研究者が、ヒトという生命体の謎に関する新たなる神秘というか、課題を突き付けられた感じがしたのかもしれません。
ここで、多くの研究者の注目を集めたのが、腸内細菌をはじめとする共生微生物も含めたヒト全体の細胞の数です。
ヒトの細胞は、約60兆個だといわれていますが、口腔内や腸内細菌をはじめとする消化管内、さらに皮膚常在菌を含めると数百兆個になるといわれていますので、共生微生物の細胞の数を考えると宿主の約10倍の細胞が存在することになりますので、「人間の体の9割が細菌」という事にもなるのかもしれません。
この共生微生物に関しても、研究によって様々なことが解るようになり、この数百兆個の微生物の集合体の遺伝子の総数が約4,400,000個にも上るという事が明らかになってきたのです。
この理屈から言えば、21,000個のヒトの遺伝子と協力しながら私たちの身体を動かしているのは、遺伝子の数で言えば、わずか0.5%でしかないという事になってくるのです。
こういった意味では、ヒトゲノムプロジェクトは大きな成果を出したともに、結果としてさらに複雑なとてつもなく大きな箱の扉を開けたのかもしれません。
この扉をしっかり開けるために、ヒトマイクロバイオームプロジェクトがスタートし、解読するDNAの量は数千倍にもなりましたが、今では、ヒトと共生微生物の両方の遺伝子を解析することは、一人の人間をより包括的に理解することになるという考え方が進み始めています。
どのような動物も多かれ少なかれ自身の生存そのものを共生微生物に頼っていると考えられ始めています。生きるための戦略」のひとつとして、今時の言葉で言えば、微生物とのアライアンスのような様な関係が進化とともにお互いに戦略的なものとして行われているのかもしれません。