2019年06月22日
食べ物と幸福感と微生物

皆さんも、「無性に、〇〇が食べたくなった・・・」という経験を大なり小なりお持ちなのではないでしょうか? その一方で、何故その食べ物だったのかを考えたことはありますでしょうか?
例えば、「疲れたから、甘いものが食べたくなる・・・」というようなものは、いち早くエネルギーに変換されやすいということだと理解されることも多いかと思いますが、そのような考え方では説明のつかないようなものが、「急に食べたくなる・・・」という経験をされた方もおられるのではないのでしょうか。
これは、人間の話ではないので分かりにくいかもしれませんが、昆虫をはじめとする小動物は単一のものしか食べないという種は少なくありません。これは、食の確保という生命維持機能の中で、競合者をなるべく少なくしておく工夫ゆえ、ということは多くの方が理解していると思いますが、問題はどのようなメカニズムで食に対する選択をしているのでしょうか・・・?
このようなことについて考えたことのある方はあまりいないのかもしれませんが、昆虫を例にとっていえば、ヒト目線で言えば極端な偏食家ということになります。
この偏食家という嗜好は、脳で考えたうえでの好き嫌いなのでしょうか?
もし、それぞれの個体別の嗜好ということであれば、個体ごとに食に関する好き嫌いも異なるのでは・・・という仮説も成り立ちますが、多くの場合は種単位で食に対する嗜好が異なるということからすれば、何か別のメカニズムによって決定づけられていると考えることが必要と考える研究者もいるようです。
そのような中、消化管の中にいる共生微生物の影響を受けているという仮説の元、昆虫の消化管内の微生物の入れ替えによって、食性の入れ替わりが起きたというような実験結果もあるのです。
こうして、考えると「〇〇が食べたい・・・」ということは、実は消化管内の共生微生物の指示に従っているだけ・・・ということなのかもしれない。と考えることもできるのかもしれません。
近年の研究では、脳内に存在するセロトニンを代表とする様々な幸せホルモンと呼ばれる物質も、その多くは腸内細菌そのものや、腸内細菌の影響を受けてつくられているということが次第に解ってきているようです。
フランスでは、55名の健康なボランティアを対象に、一方には、生きた微生物の入った棒状のお菓子を、もう片方には細菌の入っていないプラセボのお菓子を1か月毎日食べてもらうという実験で、一か月後のアンケートによると、生きた微生物の入ったお菓子を食べた被験者のグループのほうが、実験前よりも幸福感が増し、不安や怒りを感じることが減っていたという結果が得られたというのです。
この実験から考えらえることは、セロトニンの量との関係になるのですが、セロトニンそのものは腸内細菌によって産生されるのですが、セロトニンに返還される原材料であるトリプトファンは人にとって必須栄養素として外部から摂取する必要になります。
そのために、トリプトファンをはじめとする様々な必要な栄養素を腸内微生物が摂取させることで、宿主であるヒトの気分を向上させて、さらに微生物自身の生育環境を良好にすることですくすくと反映していく・・・というような、共生関係をしているのかもしれないというような考え方が少しずつ出てきているようです。
「今日は何食べようかな・・・」というときに、何食べたいかわからない・・・というときは、お腹の中の微生物が元気のない状態なのかもしれないですね。