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2019年08月24日

術前・術後の治療とシンバイオティクス

術前・術後の治療とシンバイオティクス


 手術などが必要な大きな病気の治療の場合は、入院、麻酔、手術、回復というような手術そのものだけでなく、健康な身体を取り戻していくために様々な処置や配慮が必要になってきます。その一連の期間は周術期をよばれ、手術を担当した外科医だけでなく、麻酔科医の協力によってすすめられます。

 この期間は、手術そのものによる身体そのものに掛かってくる負荷や、その負荷によって引き起こされる免疫力の低下などから来る感染症への対応など様々な配慮が必要だということが言われています。

 その周術期における感染症の予防についても、抗菌薬なども使用されるのですが、その反面、薬剤耐性菌の出現を促すなど課題もあります。そのような中、より安全性の高い予防方法として期待されているのが、シンバイオティクス療法という考え方です。

 シンバイオティクスは、人体に有用な微生物であるプロバイオティクスとその食物繊維やオリゴ糖などの増殖因子であるプレバイオティクスを併用することで、腸内フローラの安定及び改善をより効果的に行うという発想からきています。
 
 そもそも、プロバイオティクスという概念は、1989年にFuller氏によって提唱され、その後、腸内細菌や腸内細菌叢に関する有効性についての学術的な成果が数多く広まったことにより、定着してきたと言われ、その後、1995年Gibson&Roberfroidによってプレバイオティクスが提唱され、その論文の中でシンバイオティクスという手法が世にはじめて紹介されたのです。

 これは、「プロバイオティクスとその増殖因子であるプレバイオティクスを同時に投与することで、プロバイオティクスの発酵が促され、腸内において高い生菌数が維持される事によりそれぞれの単独投与よりもより強い効果が期待される」という考え方からきています。

 国内でも、東京大学小児外科の金森豊教授によって2001年に報告された、短腸症候群の患者に対する腸内環境の改善及び体重回復などの事例をきっかけに、臨床現場での重篤な症例に対するシンバイオティクス療法が広く試みられるようになったと言われています。

 また、周術期の患者に多くみられるバクテリアルトランスロケーションという現象があるそうです。これは、以前もご説明したように、腸壁のバリアそのものが緩くなってしまうことによって、腸管からの透過性が危険なレベルまで達することで、腸管から血管内などに感染症の原因となるような細菌やウィルスが入り込んでしまうことです。

 このことは、言うまでもなく身体にとって非常に良くない状況であると同時に、感染症合併症の発生に深いかかわりがある事が明らかになっていますので、少しでも早く対応したい事でもあります。

 しかし、このシンバイオティクス療法による、プロバイオティクスとプレバイオティクスの併行投与を行うことで、バクテリアルトランスロケーションの発生が抑制されている事が明らかになったというような報告もあります。
 これは、周術期の様な身体の過度の負担が掛かった状況において、腸管バリアの破綻や全身の免疫システムの低下などが起きているというあり、このことは、腸内の感染症起因菌の増殖抑制と腸管バリア機能の維持が感染防御に重要であるということが示唆されており、シンバイオティクスという考え方による健康機能へのさらなる効果も期待されます。





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Posted by toyohiko at 14:46│Comments(0)身体のしくみ
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