2019年09月28日
「抗菌」という安全を考える

アメリカミネソタ州の州知事が2017年以降、トリクロサンを生活用品に使うことを禁じる法律に署名したという報道がありました。このトリクロサンというのは、医薬部外品の薬用石鹸、うがい薬、食器用洗剤、練り歯磨き、脱臭剤、手の消毒剤、及び化粧品など、様々な場面で使用されている一般的な家庭用の抗菌製品に含まれる成分のひとつで世界中のあらゆるところでふつうに流通している製品の多くに含まれている成分です。
この署名の理由として議論されてるのは、強い殺菌作用があるために、トリクロサンを使い続けることで、生活排水や排泄物を通じて環境中に流出し水環境を中心とした生態系のバランスを乱す可能性があるいうことや、体内に入り込んだトリクロサンが脂肪組織や新生児の臍帯血さらには、母乳からも見つかっており、約75%の人の尿からも検出され健康への影響が懸念されているからです。
これらの議論でも、健康への影響をどこまで懸念材料として考えるかということも含め、これからのエビデンスも含めて見守っていかなければいけないことだと思いますが、現段階での報告では、尿中のトリクロサン濃度とアレルギーの重症度についての明確な相関関係が示されています。
このトリクロサンのように、すでに社会のなかである意味当たり前の存在となっていたのにも関わらず、科学的な解明によってより明確な危険性が認知され禁止になったアスベストのような事例もあることを忘れてはいけないかもしれません。
だからこそ、「グレーなんだからそんなに気にすることは無い・・・」という発想ではなく、そのほかの方法で本来の目的を達成する方法がないかとか、メディアなどの影響でそれほど意識していないのに何となく選んでいるということが無いかということも考える必要があるのかもしれません。
身体を洗い流す成分ということで考えれば、一番大きな影響を受けるのが皮膚になります。皮膚についての認識は様々だと思いますが、防疫という側面から考えると「皮膚は病原体への最初の防衛線」ということになります。もうすこし正確に表現するのであれば、皮膚の上にもう1枚の保護層があり、その保護層は皮膚常在菌層を中心とした微生物の集団になります。
それらの、微生物が病原体を締め出したり、侵入を図る微生物への免疫反応を調整する働きをしているといわれています。これは、「内なる皮膚」といわれる腸などの消化器官の同じような仕組みで、免疫システムをうまくコミュニケーションを取りながら身体を守ってくれているのです。
しかし、「抗菌」成分のはいったものを微量でありながらも日常的に使用するということになれば、身体の表面や内側で防衛線の役割をしている微生物の組成に対して、全く影響を与えない・・・ということについて想像しにくいということについて多くの方々がイメージできるのではないでしょうか。
抗生物質がそうであったように、「死に至る感染症から、守ってくれる救世主」という側面があることも事実です。
その一方で、耐性菌や腸内環境のディスバイオーシィスからくる様々な身体の不調など、良いことばかりではないということも、一方では理解されつつあります。
近年では、Ⅰ型糖尿病の発生と抗生物質の過剰処方についての研究もなされていて、感染症と薬との組み合わせについても関心の対象になっています。
「抗菌製品は、マーケティング(宣伝)と仮説が科学に勝った成功例である。」というような表現をしている人もいます。欧米では、5万種類以上の化学物質が使われていますが、安全性の検査がなされたのはそのうち300種類、その検査の結果使用禁止になったのが5種類といわれています。つまり、約2%弱の割合で有害であると判明しているとされています。
これを5万種類にあてはめてみると、想像以上に「グレーなもの」に囲まれて生活しているということも言えるのかもしれません。
もちろん、「そんなことはいちいち、気にしていられない・・・」「そんなことより、嫌な臭いを無くしたい・・・」ということも沢山あります。多くのことがそうですが、「疑わしい要素が少しずつ複雑に絡み合ってよくわからなくなってしまうから判断することができない」ことも世の中にはたくさんあります。
とはいえ、アンティバイオティクス(抗生物質)からプロバイオティクス(身体に有効な微生物)の時代に・・・といわれ始めている昨今、身の回りの抗菌という習慣についてすこし振り返ることも必要なのかもしれません。