2019年10月12日
微生物に操られるという考え方

1918年頃にヨーロッパで多くの人々が、謎の症状に襲われたということがありました。その症状とは、強い眠気や頭痛、さらに不随意運動がともない精神障害の様相を呈することもあり、抑うつ状態もみられ、パーキンソン病に似た症状です。
この症状は、ヨーロッパから始まり1918年の冬にはアメリカ、そしてカナダと・・・さらにはインドやロシアやオーストラリアと世界中の大陸を駆け抜けるように拡散していったというのです。この症状は、嗜眠(しみん)性脳炎といわれこのパンデミックのような症状が治まるまでに10年以上の歳月を要したともいわれています。
当時は、この症状の拡散の様相から感染性のような特徴も議論されてようだが、この症状が身体的な精神的なものなのかも含めて、原因はわからないままだったそうです。
その後、2000年代にイギリスで嗜眠性脳炎の患者に共通するあらゆる項目を比較した結果、連鎖球菌属の感染の影響による喉の痛みだということから、その連鎖球菌が自己免疫反応を誘発することで大脳の基底核といわれる脳の細胞群を攻撃していたことが解ったのです。
大脳基底核というところは、私たちの行動そのものをつかさどるところで、どのような行動が自分自身により良い報酬を与えるかを学習し、行動の選択をしている中枢器官の一つなのだそうです。
例えるならば、車を運転しているときに「ブレーキを踏むべきか」「アクセルを踏むべきか」という選択をした状況のデータを逐一蓄積していくことで、無意識のうちに自分にとってより良い選択を素早くするためのトレーニングをしているというのです。
逆に言い換えると、「行動の選択」をコントロールしている大脳基底核が攻撃されることで、その「選択」がうまくいかなくなるということになります。つまり、脳の指示に従って滑らかに反応するはずの筋肉が複数の指示を受けたようにギクシャクしたり、当たり前の行動すら上手くいかなくなるというのが嗜眠性脳炎の真相だったようです。
微生物が原因で行動が左右されると思われるような事例は、他にもあるようで・・・、
例えば、手を洗ったときに細菌が流されるというのは、本来の目的に準じているのですが、その直後に洗い流された空間を埋めるように他の細菌が増殖するのだそうで、その細菌群の一つが連鎖球菌といわれています。現在、予想の域を出ませんが、連鎖球菌群がその領土拡大をもくろみ大脳基底核にもっと手を洗うように宿主に命じている議論もあるほどです。
このように、ヒトの話の場合は納得のいかない方も多いのかもしれませんが、カマキリとハリガネムシとの関係など、水が嫌いなはずのカマキリ(宿主)をハリガネムシが水際に誘い込むという話は多くの人が耳に泣いたことがあることだとすれば微生物も含めて共生する生物との関係性は見過ごせない関係性なのかもしれません。
別の角度からのアプローチをしていけば、大脳基底核の機能障害による精神疾患といわれる症状が、連鎖球菌と関係しているという考えも当然のことながら出てきており、報告によれば、悪性の連鎖球菌株に何度も感染した子どものトゥーレット症候群の発症の確立が14倍になることや、パーキンソン病やADHD(注意欠陥多動性障害)、不安障害のような症状でも大脳基底核の損傷と連鎖球菌との関連性が示されているようなのです。
現代のような、「除菌」「抗菌」という言葉が普通になっている世の中で、日常の一つである「手洗い」が共生微生物の攪乱とともに、悪性の連鎖球菌の想いのままに操られているのであれば・・・、少し「手洗い」の仕方を見直すことで、その支配下から逃れられるかもしれないという発想もあるのかもしれません。
当然のことながら、「手洗い」そのものを否定する必要もないし、悪者にする必要もありません。
ただ、不必要な抗菌成分や除菌成分によって、悪性の微生物の耐性菌の増殖を促すような行為を控えること・・・に対して、気に掛けるということでいいのも知れません。
よく言われるのは、「細菌を殺すために化学物質を使うのであれば、アルコールを手にすりこむのが最善な方法・・・」なのだそうです。アルコールは、細菌の基本構造を壊してしまうため細菌自身に耐性をつけるスキを与えないため、ある意味最善の方法であると考えられているそうです。
「治療医学」から「予防医学」への転換といわれて久しいですが、この発想の一つとして「細菌の完全排除は困難且つ予想できないマイナスの影響も伴うかもしれない・・・」、だからこそ、「菌をもって菌を制す」の発想が必要なのかもしれません。
たかが「手洗い」なのかもしれませんが、やり方ひとつで様々な結果をもたらす事にもつながるということになるようです。