2019年10月25日
腸内細菌は変えることができるのか

腸内細菌と健康との関りについてはずいぶん色々なところで話題になっていますが、具体的にどのようにすれば良いのかということが、多くの皆さんの興味のあるところだと思います。
腸内細菌については、善玉菌、悪玉菌、そして日和見菌といわれるようなグループの菌があり、その割合も2:1:7が良いとされているような話もありますが、これについても諸説あり、腸内細菌の種類や割合については100人居れば100通りのパターンになっており、言って見れば指紋のようなものだともいわれています。
ヒトの腸内細菌叢は、お母さんからプレゼントされた樹状細胞による設計図を元に、お母さんから直接もらったものや、その後何らかの方法で体内に入ったものを取捨選択しながら、自身の免疫系と密接に連携しながら出来上がっていくといわれています。
その基本的パターンについては、1歳から3歳くらいの間に確立され、その後はその個体特有の腸内細菌群として、免疫システムと一緒になり、外部からの侵入者に対して敵と味方に振り分ける仕組みの中核を担うようになります。
そこで、一つの疑問が出てくると思います・・・
幼児期に確立された、腸内細菌叢は一生どうにもならないものなのか・・・?
ということです。
身体に有用な菌とされるプロバイオティクスを毎日定期的に摂取しなければならない大きな理由も、プロバイオティクスは、「害ではないが、仲間ではない・・・」というように腸内細菌叢が判断するために定着せずに、排除されてしまうことにあります。
とはいえ、腸内細菌叢の大半を占める日和見菌を善玉菌の仲間に引き入れるためには、常在善玉菌をつねに元気づけるためのプロバイオティクスの継続的な摂取は健康維持や増進のために有効な手段の一つです。
とはいえ、根本的な常在菌の構成を変えることができるのであれば変えることで、より健康になりたい・・・というのは気持ちとしてあると思います。
研究者の中にも、当然のことながらそのような研究をしている人もいるようで、その報告の一部を紹介させていただきます。
マウスの実験で、総カロリーを同じようにしたうえで脂肪を増やして炭水化物を減らした食事を与えると腸内細菌叢の組成が変わり、体重が増えることが解っています。また、体重の変化とともに腸壁の透過性が高まり、血液中の炎症マーカーが上昇することも同時に報告されています。
しかしながら、さまざまなに要因が複雑に絡まり、因果関係を特定するには非常に難しいという問題もあるのが現状で、肥満の原因として、「脂肪」という説と「糖」という説に二分し論戦が繰り広げられているということからしてもその難しさが想像できます。
また、1日におけるイギリスの一人当たりの脂肪平均摂取量は1945年の92gに対して、2000年には74g、さらに、糖類に関しても、イギリスでは1980年代以降約5%減っているとされており、オーストラリアでも、砂糖の使用量が減っているのにも関わらず、肥満は増加の一途をたどっているという結果を招いていることからも、脂肪と糖が肥満の直接の原因という仮説にはある意味での矛盾が付きまとっているという現状もあるようです。
しかし、食物繊維というアプローチで考えてみると意外にはっきりとしてくることもあるようで、アフリカの子どもとイタリアの子どもの腸内細菌を比べた時に、アフリカの子供にはプレボテラ属とキシラニバクレル属の細菌が多く、イタリアの子どもにはファーミキューティス属の細菌が多いという結果があります。このことは、それぞれの細菌群の餌となるような成分が含まれる食べ物の摂取量と密接に関係しているというのです。
このプレボテラ属とキシラニバクレル属には、セルロースを分解する酵素をつくり遺伝子を持っています。つまり、この細菌が腸内にいることで野菜類を摂ったときにより多くの栄養素を引き出すことができることになります。
つまり、腸内の微生物と協力していけば食べ物を利用して自分自身の様々な栄養素にしていくことができるということになります。このような事例は実は身近にたくさんあるのです。
日本人にとって海苔という食品は一般的ですが、海藻に含まれる炭水化物を分解するポルフィラナーゼという酵素を持っている細菌を腸内に持ってる方からこそであるといわれていますし、コアラがユーカリを食べるために青酸性の成分を分解するための微生物を腸内にもっていることも同じようなことになります。
この、腸内の微生物と餌となる食物繊維群は、ニワトリと卵のような関係なのでどちらが先かわかりませんが、腸内細菌にとって必要な栄養分が無ければ、その細菌群の元気が無くなり、ひょっとすると絶滅などということもある意味当然なのかもしれません。
人間はウシを飼うようになってたことで、食肉と牛乳だけでなく牛の腸に棲んでいた食物繊維分解型の微生物も獲得することができたという説を唱える人もいます。このようなことから考えると、プロバイオティクスを摂取することだけでなく、腸内細菌を育てるために必要な食物繊維などの栄養素を意識して食べていくことでお腹の中の腸内細菌叢を変えていくことも可能なのかもしれません。
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