2020年01月31日
必須栄養素と腸内フローラ

必須栄養素という言葉についてあまり馴染みの無い方もおられるかもしれませんが、実は「身体をつくる」という意味では大変重要な栄養素の分類の一つです。栄養素ということなので、もちろん食品に含まれる様々な栄養成分についてのことになります。
ここで言う必須の意味になりますが、当然事ながら身体を健康に保つための必要不可欠な栄養素ということになりますが、実は、「必要なもの全て」という事ではないということです。
食品などから摂取しないと健康を維持ために支障がでてくる栄養成分のことを指します。言いかえると「食品などから摂取しなくても大丈夫な栄養素がある」ということになるのです。
つまり、身体を健康に保つために必要不可欠な栄養素と食品から摂取しなければならない栄養素という二つの関係に差があり、その差を埋めるために体内で栄養素をつくっているということなのです。
例えば、口内炎という症状があります。この症状はビタミンBの不足によって発症することが良く知られてています。
お医者さまから、「ストレスか何かでビタミンBが不足していますね…」というようなことを言われた記憶がある方もいるかと思いますが、ストレスとビタミンBとの関わりは何処からくるのでしょうか。
ご存じの方は少ないかも知れませんが、数あるビタミンの中で腸内細菌によってつくられるものが沢山あり、ビタミンBもその一つなのです。飲料などにも使われている乳酸菌のひとつであるL.カゼイ・シロタ株(YIT9029)もビタミンBを代謝することが解っています。
さらに、ストレスによって腸内細菌のバランスが崩れてしまうことで、消化管内で共生している様々な微生物が本来の働きができなくなることの結果の一つが、ビタミンBの不足という事になるのです。
ここで、お解りの方もいるかと思いますが実は多くの生物は、消化管などに共生してる微生物によって必要な栄養素を補ってもらっているという事なのです。
人間でいえば、種族や民族によって食習慣が異なりますが、食べるものがずいぶん違ってもお互いに健康体を保っているという事は、それぞれの腸内細菌などによって必要なものを補っているとも考えられます。
この補っている栄養素はビタミン類にとどまらず、最近話題の酸鎖脂肪酸なども多いと考えられていますが、いまだ未解明の部分もあります。
こうなってきますと、いかに腸内細菌に活躍してもらって身体に良い栄養成分をつくってもらうかという事を意識することが重要になってきます。
健康な状態の腸内フローラは身体にとって有用な善玉菌と悪い働きをする悪玉菌、そして中間的な日和見菌の大きく3つに分けられるといわれていますが、その割合は2:1:7とされています。つまり、日和見菌がもっとも多いという事になります。
当然のことながら、菌なので他の生物のように栄養分を摂取する必要があります。ここで、覚えておいて欲しいのが、これらの3つの菌グループの食べ物が異なるという事です。
まずは、善玉菌の食べ物は糖や食物繊維です。しかし、多くの善玉菌が生息する小腸下部や大腸には多くの糖は消化吸収されてしまった後になりますので、善玉菌のもとに届くのは、難消化性のオリゴ糖と食物繊維になります。この食べ物が豊富であれば活発に増殖し、乳酸、酢酸などを代謝したり、ビタミン類をはじめとする様々な身体にとって良い成分を供給してくれます。さらに、乳酸や酪酸などの酸は悪玉菌の働きを抑える効果もありますので、エサが豊富であれば善玉菌の勢力が優勢になります。
続いて、悪玉菌の食べ物はたんぱく質などを中心に増殖するといわれています。たんぱく質を分解するというとこまでは良いのですが、その結果出てくるものが問題になります。
悪玉菌は、アンモニアや硫化水素、インドールやアミンなど様々な炎症のもとになったり、発がん性を促す物質として考えられているものが多く産生されてしまいますので、なるべく勢力を抑えたいグループの菌になります。
最後に特徴的なのは、全体の約7割に及ぶ最も勢力の大きい日和見菌のグループです。ここで最も注目してほしいのは、この7割のグループは状況に応じて食べ物を変える・・・という事です。
どのような事かと言いますと、善玉菌の勢力が優勢だと感じた時には善玉菌と同じ食べ物を好むようになり善玉菌と同じように端鎖脂肪酸などの健康に良い栄養成分を出すのですが、悪玉菌のほうが優勢であると判断した場合には悪玉菌と同じような働きをし始めるのです。
これが、まさに日和見菌といわれる所以であり、この勢力が最大なのです。
こうして考えると、この最大勢力をいかに味方につけるかが、健康にとって最も良いという事がお解りいただけると思います。
そのために必要なことは、プロバイオティクスといわれる善玉菌を食品などから取り入れることで、常に優勢を保つことができるようにしておくことです。
しかし、それ以上に大切なのは、プレバイオティクスと呼ばれる腸内細菌のエサとなる難消化性のオリゴ糖や食物繊維を全体の2割の善玉菌の分だけは足りないという事を認識し、さらに7割の日和見菌のためのエサを十分に準備してあるかという事なのだと思います。
近年、医療現場でも取り入れられているシンバイオティクスの考え方は、このようなメカニズムにもとづいて出来てるのだと思います。
近年、「育菌」という言葉が出てき始めましたが、お腹にとってどのようなエサを用意するかを意識した食生活の重要性もますます高まってくるのだと思います。
同じ糖質を取るにしても、オリゴ糖を積極的に選ぶことで、人間のカロリーとして取り入れるのではなく、腸内細菌のエサとして腸内細菌の産生してくれた短鎖脂肪酸やビタミンなどの様々な栄養素として取り入れるかの違いになるのであれば、「育菌」という発想は、これからの食に対して大きな考えかたの軸になってくるのかもしれません。