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2021年04月24日

赤ちゃんのお腹と短鎖脂肪酸

赤ちゃんのお腹と短鎖脂肪酸


 生まれたての赤ちゃんのお腹の中には、大人のお腹の中のように様々な腸内細菌がいるわけではなく「無菌」の状態で生まれてくることはご存知でしょうか。

 その後、徐々にお腹の中に様々な経路から腸内細菌として定着していくための微生物が消化管内に入っていく過程を経て腸内フローラと言われる菌叢が出来上がっていきます。

 通常分娩の場合、赤ちゃんの腸内フローラに一番影響を受けやすいのがお母さんの腸内細菌であるという事は、近年良く知られるようになってきました。また、「赤ちゃんへの最初の贈り物・・・」という表現も耳にするのもこのような理由からです。

 乳幼児期の腸内フローラの形成過程においては、分娩の形式、摂取する母乳やミルク、・・・さらには、抗生物質の利用など様々な環境要因に左右されてしまうことが解っています。

 乳幼児期に形成された腸内フローラは、肥満や喘息、Ⅰ型糖尿病、栄養不良などのリスクに影響を及ぼすなど、その人の健康状態に対し生涯にわたり影響を及ぼすことも近年の研究で分かってきています。

 さらに近年では、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸にも注目が集まっており、脂肪の蓄積を抑える「酢酸」や、腸の上皮細胞の主要なエネルギー源として大腸の機能維持に関わると言われている「酪酸」などにも、生理機能への影響も含めて注目されつつあります。

 その理由の一つとして、これらの短鎖脂肪酸には感染症予防や脂肪蓄積の抑制、アレルギーの発症抑制等に関与することが報告されており、特に乳幼児期の腸内細菌叢および腸内の短鎖脂肪酸の種類や量を制御することができれば、同時期および成長後の健康維持や疾病リスクをコントロールできる可能性がある事などから多くの研究者の関心を集めているのです。

 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所において、乳幼児を対象に生後2年間の腸内フローラの形成過程および腸内細菌の代謝産物である短鎖脂肪酸との関連性についての調査研究の結果が報告されましたのでご紹介させていただきます。

 この調査は、通常分娩で生まれた後、母乳で育てられた乳幼児12名を対象に生後2年にわたり追跡調査を行ったものです。

 この結果、この2年間の短い間に腸内フローラ内において最優勢となる腸内細菌のグループが明確に変化をしていったことに加え、それらの最優勢の腸内細菌の変化に伴い短鎖脂肪酸の濃度も変化をしていきました。
 
 具体的には、生後直後は、エンテロバクターと呼ばれる大腸菌類の仲間が優勢であったのですが、その後、母乳中のオリゴ糖が大きく関与することで、ビフィドバクテリウムと呼ばれるビフィズス菌の仲間が最優勢となり乳酸やギ酸の割合が高くなりました。
最後には授乳の停止をきっかけにクロストリジウムの仲間が最優勢となり、腸管内の短鎖脂肪酸の割合も酪酸とプロビオン酸の濃度が高くなっているという結果となりました。

 この研究に携わったチームでは、短鎖脂肪酸の生理作用への関わりの解明とともに、これらのメカニズムを利用した乳幼児期のより有効な腸内フローラ形成を促すようなプロバイオティクスの開発によって、新たなる疾病リスクの回避につながるのではとしています。

 腸内細菌と短鎖脂肪酸・・・これからますます健康にとって重要なキーワードになるかもしれませんね。






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Posted by toyohiko at 11:51│Comments(0)身体のしくみ
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