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2021年06月04日

脳と腸そして腸内細菌との新しい関係性について考える

脳と腸そして腸内細菌との新しい関係性について考える


 脳腸相関という言葉が、まだあまり知られていない頃に「自家中毒」という言葉が使われていました。この自家中毒という考え方は、「腸で発生した毒素がうつ病や不安、さらに様々な精神疾患につながる・・・」というものですが、しっかりとした根拠となるものはあまりなかったとも言われています。
 しかしながら、「脳―腸―腸内細菌軸」という考え方が出てきつつある中、脳と腸そして、腸管内に共生している腸内細菌との関係性の仕組が明らかに成りつつあるようです。

 今回は、脳と腸内細菌に関する新しい知見を、2016年に開催された「腸内フローラとメンタルヘルス」をテーマとした第25回腸内フローラシンポジウムでの九州大学大学院医学研究院 心身医学の須藤信行教授の特別講演をもとにご紹介させていただきます。

 腸管には全身からの感覚情報を中枢に伝えるための迷走神経、脊髄求心性神経などの多数の求心性神経があることが知られています。
 これは、腸管内の情報を脳などの中枢神経に伝達していると共に、身体機能を維持するために伝達する必要があるという事になります。

 また、そのメカニズムに腸内細菌の代謝物としてよく知られる短鎖脂肪酸の存在が大きな関わりを持つことも明らかに成りつつあるというのです。
 
 特に酪酸については、抗うつ作用が動物実験で明らかになったり、脳血液関門と言われるアミノ酸やグルコースのような神経活動のエネルギー源以外のものが入り込まないようなバリア機能についても、無菌マウスではその透過性の亢進が見られるものの、通常細菌叢を持つマウスでは透過性の亢進が見られなかったり、酪酸の投与のみでも脳血液関門の維持作用が観察されたという報告もあります。

 さらに、カテコラミンと呼ばれるドーパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の基本骨格となる物質との関係性についても、長年の間腸管内の含有量などの測定が技術的に困難であったこともあり、様々な仮説を検証することが出来なかったとされていますが、腸管内や糞便中のカテコラミンの測定が可能になったことで、腸と神経伝達物質に関わる様々な事が解明されるようになると考えられています。
 
 実際に、腸管内にドーパミンが存在することや、ドーパミンなどの神経伝達物質が腸の水分吸収や電解質吸収に関わるだけでなく、内臓知覚過敏を含む脳腸相関に関わるとされる様々な症状との関係性の解明が進んでいくと思われます。

 神経組織の障害やストレスの刺激に対して修復や維持に重要な役割をしているとされている神経謬細胞の一つであるミクログリアについても、腸内細菌がミクログリアの活性化や恒常性について関与しているということがドイツの研究グループによって明らかにされています。

 無菌マウスの実験などでは、経口的に短鎖脂肪酸を投与することでミクログリアのレベルが正常化することや、抗生物質を経口投与することで海馬における神経再生が抑制されるなど脳と腸内細菌との関係性はもはや無視できない状況にあるのかもしれません。

 腸管内で起きていることについては、未知の部分も多くこれからの研究の成果に期待がかかるところかと思いますが、現在の知見から考えても単に栄養素として摂取したものだけではなく、腸内細菌をはじめとする多くの共生微生物が産生する様々な物質が脳をはじめとする全身の健康維持増進に密接な関わりがあると考えれば、今まで以上に「育菌」という発想で生活習慣を見直すことがメンタルヘルスにとっても有効なのかもしれません。






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