2021年12月30日
老化と免疫の関係を考える

「不老不死」という言葉は多くの人が望んでいる永遠の欲求として例えられることがありますが、その一方で、「死はあらゆる生命に訪れる宿命」とも言われ、逃れられないものである事も事実です。
アップルの創業者で知られるスティーブ・ジョブス氏は、「死は生命最大の発明である」という言葉を残していますが、「不老不死」は、現代の科学をもって可能なのでしょうか、そして、人々に幸せをもたらすのでしょうか・・・?
「老化」については様々なことが解ってきており、「理論的には老化を止めることはできる・・・」という段階まで研究が進んでるとされています。そのカギを握るのが、細胞内の染色体にあるテロメアです。
東京大学定量生命科学研究所の小林武彦教授によりますと、37兆個と言われる人間の細胞は精子や卵子などの生殖細胞を除いて、細胞分裂を繰り返すことで劣化してしまい、うまく新しい細胞を作れなくなっていくのだそうです。この劣化が、テロメアが短くなっていく事で起こるのです。
生物の身体は、新しくできた細胞と常に入れ替わりをしていくことで生命体を維持しています。このような入れ替わりは、スキンケアなどの分野でよく耳にするターンオーバーという仕組みです。
このターンオーバーは老化の仕組みそのものであり、老化を止めることは細胞がリニューアルすることを奪うことになるというのです。
この老化に最も影響を及ぼすとされるのが、ストレス、喫煙、飲酒、紫外線などであることがわかっており、年齢差よりも個人差の方が大きいとされています。
また、細胞がリニューアルしないということは、細胞分裂の時にどうしても起きてしまうミスコピーが原因となってできる癌細胞にとっても同じことで、老化はがん細胞の増殖を防ぐための必要なシステムの一つであり、もう一つの仕組が免疫システムだと言います。
すでに、技術的には「テロメラーゼという酵素を用いて、染色体内のテロメアを操作することで老化を防ぐことが出来るというマウスによる実験結果」があるのですが、その結果、癌化が急速に進んでしまうということも同時にわかったというのです。
小林教授は、死はシステム化されており、そのシステムに癌が大きく関わることで「不老不死を絶対に許さないための仕組」になっているのでは・・・と述べています。
一方、免疫システムは「外敵から身を守る・・・」機能と、癌のような「内なる脅威から身を守る・・・」という二つの役割があると考えられていますが、老化を止めても進行しても細胞の寿命がある以上、癌という内なる脅威から逃れられないということであれば、加齢に伴い免疫システムの役割はより大きくなるということになります。
人生100年の時代と言われ始めてしばらくたちますが、人間は、生殖機能が無くなってからの寿命があるという特殊な生き物であると同時に、生殖期間が他の霊長類よりも短いという特徴があります。
これは、アメリカの進化生物学者ジョージクリストファー・ウィリアムズが提唱した「おばあちゃん仮説」によると、「残った能力を子孫の世話に振り分ける」ためなのではと考えられ、人間の進化と社会性との関係に関心が高まっています。
人間が怒りに陥り易い状況には、次の9つの要素があるといわれています。
生命や身体を守るとき(life)
侮辱されたとき(Insult)
愛する家族を守るとき (Family)
自分の居場所を守るとき(Environment)
友人を守るとき(Mate)
社会の秩序を守るとき(Order)
資源を守るとき(Resources)
自分の属する集団を守るとき(Tribe)
自由に移動できない時(Stopped)
これらの項目を見ても、社会性に関わる内容が多いことが解ります。これらの怒りの感情の理由には、「同じ想いを他の人にさせたくない」という「第三者視点での怒り」があるのではというのです。
細胞分裂のみの無性生殖の時代は、死という概念がありませんでした。有性生殖は、他の個体の多様性を受け入れることが特徴になりますので、「親よりも、子どもの方が優秀であるという原則」をもって、進化を支えてきたのです。
つまり、生物学的遺伝子を進化させることと併せて、「社会的遺伝子」として繋いでいく・・・ことが「老化」、そして「死」というシステムの大きな役割であり、そのシステムをなだらかに受け入れるための仕組の一つが免疫システムという考え方もできます。
小林教授は、「ヒトは利己的に生まれて、公共的に死んでいく」と述べています。このような生まれ持ったシステムが、これからの持続可能な社会への道筋にもつながっているのかもしれません。