2022年01月14日
「意志の強さ」と身体との関係を考える

「今年こそは、強い意志をもって・・・」という決意をしたのにも関わらず、ついつい思うようにいかなかったという経験は誰にでもあるかと思います。
「気持ちはあるのに、どうもうまくいかない・・・」という仕組みについては、脳と身体のネットワークにどうやらヒントがあるようです。
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院の小谷泰則助教によりますと、脳には与えられたことに対して集中して取り組むときに働く「中央実行ネットワーク」と、ボーっとして、過去や未来の様々なことが自然に思い浮かんでくるときに働く「デフォルトモードネットワーク」、そして、その両者の切り替えを脳の疲労度などにあわせて、うまく切り替えるための「顕著性ネットワーク」の三つのネットワークが、上手にバランスを保つことによって、生命の維持や身体の恒常性を保っていることが解ってきたそうです。
言ってみれば「やる気スイッチ」である中央実行ネットワークを常に入れっぱなしにしておくわけにもいかないので、必要に応じて「デフォルトモードネットワーク」に切り替えている・・・というようなイメージです。
ここで、興味深いのは、「ひらめき」や「アイディア」に関わることについては、「やる気スイッチ」がオフになっているデフォルトモードネットワークの時に浮かんでくるそうなので、顕著性ネットワークによる切り替えは社会生活において、想っている以上に重要ですし、意外と忙しく切り替えているのかもしれません。
小谷助教は、この顕著性ネットワークはやる気だけではなく、喜怒哀楽にも大きな影響を与えているとしています。
例えば、これらのバランスが崩れることで、鬱のような症状になったり、統合失調症のような状態になる事が報告されています。
これは、「疲れていても仕事をする・・・」など、意志によって無理やり身体を活動させることが、顕著性ネットワークの抑制につながり、デフォルトモードネットワークと中央実行ネットワークとのバランスが崩れてしまい、心理的トラブルなどメンタルヘルスへの影響につながってしまうのです。
さらに、顕著性ネットワークは他の二つのネットワークとは異なり、年齢と共に発達するという特徴がありますので、青少年期のような急激に発達する時期に顕著性ネットワークを抑えてしまうことで、心理的なトラブルの原因につながり易いということも認識しておく必要があるようです。
日常の生活の中では、「意志によってはどうにもならない・・・」と感じたり、その一方で、「疲労がたまっている・・・」という感覚があるにもかかわらず無理をしてしまうというような、意志に反するような場面は度々あるかと思います。
このことは、「脳から身体・・・」という方向の情報よりも、「身体から脳・・・」へ働きかける情報の方が強く反映され易いために、「意志の強さでは・・・行動が伴わないことが多い・・・」のに対して、「行動し続けてしまうことで・・・意志をもコントロールしてしまう・・・」可能性があるということを認識しておくことが必要です。
「精神的な疲れ・・・」を感じた時には、無理をしないことは何よりですが、食事、睡眠・休養などを意識し、身体からのアプローチを中心に行った方が早い回復につながると考えることもできます。もちろんその中には、脳腸相関という考え方にもあるように、お腹の調子を整える食生活なども有効な手段の一つになると思います。
実際に、高齢者を対象とした研究では歩く速さが早いほど顕著性ネットワークの働きが強くなることが解っていますし、「運動が脳に良い効果をもたらす・・・」という研究結果は数多く報告されているようです。
多くの場合、「人の心」は、脳の中にあると考えがちですが、身体の状態が脳の様々な活動に影響を与えている方が、より大きいということも意識していく必要があるのではないでしょうか。
Posted by toyohiko at 11:42│Comments(0)
│身体のしくみ