2022年02月18日
植物のニオイについて考える

朝夕の日差しも長くなり、新緑の季節がすぐそこまで来ているような感覚を季節の変化からも感じ取れるような日が多くなってきました。
「新緑の季節」に象徴されるのは、新しい息吹を感じ取れるような鮮やかな緑の色ですが、その感覚にさせるのは、色だけではなく、植物のニオイにもあるような気がします。
植物は、花を中心に様々な臭いを発していますが、このニオイには植物がより良い遺伝子を次の世代に引き継ぐための様々な生存戦略が隠されているというのです。
山口大学大学院創成科学研究科の松井健二教授によりますと、花を中心とした植物の様々なニオイは、それぞれに明確な目的があり、花や果実のニオイと、葉や根のニオイとは目的も異なっていると考えられるとしています。
さらに、これらのニオイはヒトに対して発しているものではなく、ヒト以外の生態系での誘引や防御、さらにはコミュニケーションに利用されていると説明しています。
その目的からすれば、ヒトはおよそ数十万種類のニオイを嗅ぎ分けられるとしていますが、ヒトが感知できないニオイもあるという可能性も十分にあるというのです。
「ニオイ」と一言でいっても、その正体は化学物質です。つまり、何らかの理由でそれらの物質を産生しているということになります。
植物にとってのニオイについての第一の目的は、実や種子をつくって繫殖するためです。
花のニオイによって蜂や蝶などの昆虫を引き寄せ受粉するために、花粉の媒介者を誘引します。当然、その昆虫は手ぶらで帰るのではなく、花から出てくる甘い蜜などの報酬を受けとることで、この取引が成立するという仕組みです。
また、種子を遠くに運んでもらうために果実も同様にニオイを発しています。この「遠くに運んでもらう・・・」ことがポイントであり、同じ種の中でも出来るだけ遺伝子の多様性を保つことが、ウィルスなどの外敵からの脅威によって絶滅してしまうリスクを回避していると考えられています。
真偽のほどは、確かではありませんが、真下に落ちた種子からの実生はなかなかうまく育たないという樹種もあるという話も耳にしますので、遺伝子の多様性の観点からしても遠くに運んでもらうことのメリットはあるのだと思います。
また、種子は果実に対して丈夫な構造になっていることと、場合によっては種子まで食べてしまわないように毒性を持っているものさえあるとされています。そのため、鳥などの小動物の腸管をそのまま通過して出ることができることも「遠くに運んでもらう・・・」仕組の一つになります。
また、ビオトープなどのように人の手で生態系をコーディネイトする場合においても、あえて特定の鳥類の誘引を想定した樹種の選定をすることで、食物連鎖の循環をより大きくするというような手法は、多くの場面で取り入れられていますので、植物のニオイや色による昆虫や動物の誘引効果は実際に利用もされています。
次に外敵から身を守るためにニオイを発しているケースがあります。このように、身を守るためのニオイの多くは、葉や根からニオイ物質を発生しているといわれています。
その中でも代表的なものが、ハーブと言われる植物の仲間です。
このハーブの仲間の特徴は、葉の表面に小さなニオイ袋のようなものがたくさんあり、そのニオイ袋が何かに触れるなどの刺激で簡単に破裂する仕組みになっています。
このような仕組みは、外界からの昆虫などの侵入に対する防御になるのです。もう一つ特徴的なのは、花や果実に比べると高濃度のニオイ物質であるということです。そのために、非常に刺激的なニオイを感じさせることで、「嫌がって逃げる・・・」ことを目的としています。
コウモリの仲間には、ミントのニオイが苦手というような種もありますのでこのニオイ成分を利用した防疫にも利用されています。
松井健二教授によれば、ほとんどの植物は、自分が食べられていることをわかっていて、「私は今食べられています。」とアピールするニオイを出しているという大変興味深い研究報告もあるようです。
このメカニズムは、人間が傷口にかさぶたをつくるために様々な働きをすることと同じように、植物もニオイ成分を活用して、傷を修復したりしているというのです。
さらに、このニオイ成分を通じて周辺の植物にも情報を伝達し、「今どういう虫に、食べられているか・・・」もその情報の中に入っていると考えられています。その情報をもとに、近くの植物が外敵に対する攻撃の準備をしているというのです。
人間にとってのニオイは、自然界の中では思いもよらない役割をしているとともに、意外にも既に日常生活の中で取り入れていることも多いようですね。
Posted by toyohiko at 16:56│Comments(0)
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