2022年03月05日
性スペクトラムという概念を考える

スペクトラムという言葉はあまり聞きなれないかもしれませんが、最近は様々なところで耳にするようになりました。辞書などには、「意見・現象・症状などが、あいまいな境界をもちながら連続していること」と説明されています。
つまり、「〇か×」とか、「白か黒か・・・」のように明確な境界があるかのようにされてきたものが、実は明確に分けることが出来ず、「白に見えるくらいのグレー・・・」から「黒に見えるくらいのグレー・・・」まで、様々な状況があるという理解をすることが、社会的にも必要であると考えられることに対して使われているように思われます。
自閉症スペクトラムなどもその代表的な事例の一つかもしれません。
そもそも、性別は「男性と女性」、「オスとメス」というように、明確な違いがあることが、多くの人にとって、当たり前のように考えられています。
その一方で、生物の世界では、一つの個体の雌雄が入れ替わったり、両性の生殖機能をもつような種が存在することも事実です。
ディズニー映画で有名になったカクレクマノミもその一つで、一つの共同体の方で、一番大きな個体がメスの機能を持ち、二番目に大きな個体がオスの機能を持つとされています。基本的にその二つの個体間のみで生殖活動が行われ、あとの個体は生殖活動をしないといわれています。
この、二つの個体のいずれかが死亡した場合は、その残った個体の中で一番大きな個体がメス、二番目に大きな個体がオスという循環を繰り返すとされているのです。
このように、生物の世界では雌雄の分類は、想っている以上に変化に富み、かつ曖昧なものであるというのが現実なのです。
生物学的な視点で、ヒトの性別を考えるときによく言われるのが遺伝子が記録されている構造体の一つであるY染色体の有無が良く議論されますが、北海道大学 大学院理学研究院 生物科学部門 黒岩 麻里教授によりますと、生物学的に男性であると認められる人の中にも、Y染色体が無いケースが認められるようになり、Y染色体が無くなっていく可能性を指摘しています。
また、ノートルダム大学リーゲトラー博士は、男性ホルモンのテストステロンの量の変化について、次のように指摘しています。
本来、男女のテストステロンの分泌量は男性に対して、女性は10分の1ないしは、20分の1とされていましたが、時代と共に変化し男性の量の半分という事例も珍しくなくなってきたとしています。
これは、男性のテストステロンの量の減少と女性のテストステロンの増加との双方のけいこうが見られ、「中性化」というような表現をするような報告もあります。
これらの傾向は、先天的というよりも後天的な理由が考えられるとされており、男性の減少理由には運動不足などによる脂肪の増加などとされ、女性は社会的活動の増加との関係性などがあげられています。
先ほどの例は、後天的な性の分化に関してですが、先天的な場合、特に生物学的な性についても様々なことがわかってきました。
出産時に性別を決めるのは、外性器がどのようになっているか、すなわち陰茎、陰嚢がついてるかどうかを基準として決めるのが一般的だとされています。
しかしながら、生殖機能で考えた時の性と外性器の様子が必ずしも一致しないケースが実際にあるのと同時に、男性の外性器の形状と女性の性器の形状もどちらか一律ではなく、多きさや形が、グラデーションのように中間的な形をしているケースもあることが報告されつつあります。
九州大学大学院医学研究院の諸橋健一郎教授は、生物学的な性と自認する性という概念がありますが、これもどちらか一方という二つの枠に収まらない性のありかたに出会うことが多々あり、「性」はオスとメスの間で連続して変化してるスペクトラムとして捉えるに至ったと述べています。
我々は、とかく「どちらかに分類する・・・」という事をしてしまいがちですが、実態は非常に複雑で、「メスの性質を持つオス」、「オスの性質を持つメス」という状態の個体は、生物学的な細胞レベルで存在しているという現実を、どのように解明し、どのように理解していくのかが、これから必要になってくるのだと思います。