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2022年05月06日

食欲という視点から「社会規範」と「もったいない」を考える

食欲という視点から「社会規範」と「もったいない」を考える


 最近では、コロナ禍による生活様式の変化もあり、なかなか目にしない方も多いのかもしれませんが、多くの皆さんと会食したときに「大皿の上に料理が少しだけ残っている・・・」という「遠慮のかたまり」状態のお皿を目にした経験のある方は多いのではないかと思います。
 
このような、状況は公共の場面と家庭内での場合とでは結果が異なるといわれています。

 家庭内などの場合では、「最後の1品・・・」に対しては、もったいないという心理が働き、残さずに食べようとすることが多いのだそうです。
 人間の場合は、他の動物と異なり、本来的に「残さずに食べる」という傾向が強いようで、「強迫性完食」という言葉もあるほどです。

 これは古代から人類が飢餓と隣り合わせになっている時代が長かったために、目の前の食品を残すということに対して強烈な罪悪感がプログラミングされていることで、目の前にある食べ物を食べ尽くさないといけないという強迫観念に駆られるというのです。事実、このようなメカニズムに影響され、過食になってしまうこともありますので注意が必要とも言われています。

 その一方で、家族以外の人との会食やビュッフェスタイルの宴席などでは、逆に「最後まで食べきる・・・」というケースは少なく、お皿には少量の料理が残るという事が多いようです。
ここでは、独り占めするのではなく「みんなのために、少し残しておかなくては・・・」という社会的規範が働くというのです。

 アメリカで行われた興味深い実験があります。学生たちを対象にお菓子を「無料で、持って行って良い・・・」とした場合と、「1セントと破格の価格で提供した場合・・・」との比較実験で、1時間あたりに207名の学生が無料のお菓子を持って行ったのに対して、有料の場合には58名と約3分の1の人数が利用したという結果になりました。

 ここまでであれば、「予想通り・・・」という事になるのだと思いますが、実際に学生たちが持って行ったお菓子の数は、無料の場合には1.1個だったのに対して、有料の場合は3.5個となり、全体の数量も無料の時の方が少なかったというのです。

 行動経済学では、「無料」の時には自制という社会規範が他者の利益のために自分の欲望を犠牲にするようになり、「対価を払った・・・」という市場規範が介入することで、欲望が優勢となり社会的な規範が置き去りになっていく事例として紹介されています。

 実際に、「誰かのために・・・」という想いでやっている事なのに、そこに「対価」という考え方が出てきた時点で、「意欲が喪失してしまった・・・」というような感情になった経験のある方も多いのだと思います。

 つまり、人間が本来持っている「社会性」というものは思っている以上に、大きなものであるという認識が必要なのかもしれません。

 食欲に関して言えば、「食べ過ぎてしまう・・・」という負の側面に対して、「もったいない」という、社会的な貢献としての要素に、人間が本来持っている「飢餓からの回避行動としての食欲」という二つの強大な引力によって引き込まれるとしたら、「自身の皿の中の量をコントロールする」などの意思をもって、対抗するしかないのかもしれません。


 



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