2022年06月03日
歯の健康から考える健腸長寿

先日、政府が打ち出すあらたなる方針の一つとして、「国民皆歯科健診」の導入が検討されているという報道がなされました。
この方針は、通称、「骨太の方針」と呼ばれる経済財政運営の基本方針の原案に、歯と健康の関係性に着目し、国民全員に歯科検診を義務付けるという考え方です。
ここで、注目したいのが経済財政という、一見、「歯」とあまり関係がなさそうな議論の場で「歯科検診の義務付け・・・」という方向性が示されたということです。
このような方針が検討されている大きな理由は、「歯の健康」が全身の健康に大きく寄与しているために、「歯」からアプローチすることで、「社会保障としての医療費全体を抑えることができる・・・。」という可能性が大いにあるからだと考えられています。
実際に、高齢者では、自分の歯を多く残し、よく噛めている人ほどQOLが高く、活動能力も高いために健康寿命に大きく貢献しているといわれています。
また、歯の健康を維持してほかの病気の誘発を抑えることにもつながるとも言われています。
歯の健康にとってよく言われているのが、虫歯と呼ばれるミュータンス菌による歯のう蝕や、歯周病菌による炎症からくる様々な健康への影響です。
日本臨床歯周病学会では、歯周病の健康への影響について、以下のように述べています。
「歯周病菌による炎症によって出てくる毒性物質が歯肉の血管から全身に入り、様々な病気を引き起こしたり悪化させる原因となります。炎症性物質は、血糖値を下げるインスリンの働きを悪くさせたり(糖尿病)、早産・低体重児出産・肥満・血管の動脈硬化(心筋梗塞・脳梗塞)にも関与しています。」
「また、歯周病菌のなかには、誤嚥により気管支から肺にたどり着くものもあり、高齢者の死亡原因でもある誤嚥性肺炎の原因となっています。歯周病菌のひとつP.g菌(Porphyromonas gingivalis)がもつ"ジンジパイン"というタンパク質分界酵素はアルツハイマー病悪化の引き金をもつ可能性が示唆されています。」
と、単なる口腔内の症状だけでなく、全身のあらゆる疾病につながることの影響について、説明しています。
当然のことながら、「口」は、消化器官の一番最初の入口として重要な役割をしています。
また、先ほどの説明にもありましたように、口腔内の様々なトラブルの原因となるのは細菌やウィルスになりますので、基本的に感染症ということになります。
皆様もご存じのように、消化器官は生物が生命維持するために必要な栄養素を取り入れる唯一のシステムです。だからこそ、食べたときに一緒に侵入してくるあらゆる外敵に対する対抗手段として、唾液や胃酸、胆汁酸などの殺菌機能に加え、腸管内中心とした免疫システムが縦横無尽に張り巡らされているのです。
このようなシステムの「第一の砦」としての、口腔内での感染のリスクを下げることの重要性は言うまでもないと思います。
実際に、口腔ケアを意識することで、歯周病や虫歯の予防だけでなく、新型コロナウィルス感染症の予防効果について日本歯科医師会でも研究成果が紹介されていますし、ほかの上気道感染症についての同様の効果が期待できる可能性もあるようです。
従来のように、「虫歯予防のために歯磨きを・・・」という意識であれば、食後の歯磨きが重要になります。
しかしながら、「あらゆる感染症の予防は、口腔内で増殖した細菌やウィルスを体内で増やさないこと・・・」というように意識が変化していけば、正常な口腔内フローラを大切にし、就寝中に増殖してしまった細菌達を体内に取り込まないための「あさイチ歯磨き」と、就寝前の歯垢除去を中心とした歯のお手入れに変えていくことで、健腸長寿にもつながるのかもしれませんね。
Posted by toyohiko at 11:24│Comments(0)
│身体のしくみ