2022年08月12日
光合成という生命誕生の歴史を変えた仕組みを考える

そもそも、「植物の色は何色なのでしょうか・・・?」の問いかけに、多くの人は「緑色」と答えるでしょうが、「植物の色は透明である・・・」という考え方があることはご存知でしょうか。
岡山大学 異分野基礎化学研究所 構造解析研究分野の沈建仁教授によれば、植物に含まれる葉緑素は光の中の、赤色よりの長い波長と紫から青にかけての短い波長の部分を吸収する性質があり、真ん中の緑色の波長の光が吸収されずに反射されるために、植物は緑色に見えるのだそうです。
この葉緑素が含まれる葉緑体によって植物は光合成をおこなうのですが、この光エネルギーから、水を分解して酸素をつくり出すという私たちヒトを含む多くの生物の生命の基盤ともいえるメカニズムについては、長い間解明されていませんでした。
光合成の仕組としては、葉緑素の分子が光を吸収し、葉緑素から光エネルギーの影響を受けることで電子が飛び出します。葉緑素から電子が飛び出した結果、電子が足りなくなるために、隣の分子から電子を奪いとる・・・という状況が起こります。
このような、反応が連続して起こることで、隣の葉緑素からは電子を奪い取れなくなり、植物中の水分子の電子を奪いに行くわけです。そして、水分子から電子を奪い取られる行為が4回続くことで、水分子が、水素イオンと酸素分子に分解されるのです。
沈建仁教授は、「ただ葉緑素と水があればいいか、というとどうやらそうでもない・・・」らしく、その電子の奪い合いを誘発するための触媒となるマンガンとカルシウムという存在があり、しかも非常に複雑なたんぱく質の化合物に囲まれた構造になっていることが解ってきたとしています。
現在は、貴金属や高価な触媒を利用しての人工光合成についての成功事例はあるものの、生命誕生の起源にもなる重要なメカニズムに関しては、実験室レベルでの様々な再現性実験にも関わらず、現代の科学をもってしても酸素が実際に出てくる反応そのものを再現できていないというのが現状のようです。
光合成のメカニズムの特徴を植物の一つの営みとしての視点ではなく、生態系や社会を支える仕組みとして考えてみれば、「高効率での光エネルギーの利用」、「光エネルギーの吸収・電子伝達・水分解反応の適切な分業」、「安価で豊富にあるマンガンとカルシウムを触媒にしている」という、これらの特徴をもった水を電子源として有機物と酸素、そして水素を産生するシステムです。
光合成のメカニズムの研究の目的には、人工光合成という環境問題も含めた持続可能な社会に向けての課題解決の一つにつながる可能性を求めているからです。
化石燃料によって支えられている、現代の文明社会にとって、「脱炭素社会」は大きな社会課題になっていることは事実です。
人工光合成が、「生態系に関する課題解決の切り札である」というような、利用するという視点だけではなく、現代の叡智をもってしても再現しえない命をつなぐ仕組みに対してさらに学ぶ、という事だけでなく畏敬の念をもって支えていく事も大切にしたいものです