2022年08月19日
「体内時計は植物にもあるのか」を考える

体内時計は、睡眠の質や食欲だけでなく、食べたものの代謝のコントロールなど身体の恒常性を支える様々な機能に関わっていることが解ってきています。
人間を含めた哺乳類の体内時計はあらゆる細胞に存在し、その機能を脳の中心部下面にある視床下部の中に司令塔の機能を持ち、神経細胞のネットワークを通じて全身のリズムを調整していると考えられています。
このように、多くの生物は体内に時計のような機能を持つことで、24時間の周期リズムを自ら刻み、地球の自転に伴って起こる昼夜の様々な変化に対応しており、このリズムを刻む機能を概日(がいじつ)時計と呼んでいます。
この概日時計の機能は、植物にもあるのでしょうか・・・?
奈良先端科学技術大大学院大学の遠藤求助教によりますと、植物は光エネルギーを利用することで光合成をおこなっているために、光環境の変化に対して同調することで自らの生命を維持することは大変重要な機能の一つになるとしています。
特に、多くの植物は自分の意思で移動できないこともあり、昼夜での葉の動きなど様々な工夫をしていることは、なんとなくお気づきの方も多いのかもしれませんが、このような葉の開閉運動なども概日時計が関与しているというのです。
さらに、二酸化炭素と酸素のガス交換や蒸散を行っている気孔の開閉も概日時計の制御下にあるとされています。
このように、明暗や日照時間の長短も含めた環境の変化にあわせ、より効率的に対応することが植物自身の成長に大きな影響を与えるからだと考えられています。
実際に、明暗のサイクルを人工的に20時間にした場合と、28時間にした場合を比較した実験では、成長が24時間サイクルの場合と比較して半分程度しかないという結果も報告されています。
このことは、概日時計のリズムとその植物を取り巻く外的環境のリズムがあっていると成長するが、両者のリズムがずれることで成長が阻害されることが示唆されています。
更に、開花のタイミングや昆虫を引き寄せるための香り成分を出すタイミング、その植物にとって外敵となる生物から身を守るための防御物質を出す仕組みに至るまで、より効率的なタイミングで行うために概日時計が関わっているというのです。
人間にとっての概日時計については、時間栄養学という概念が広まることによって、健康の維持向上やアスリートのパフォーマンスの向上など、今後様々な可能性があるとされています。
このような植物の概日時計には、「自ら移動できない存在である植物であるからこその機能・・・」として、環境の変化に適応するためにより効率的に自らのエネルギーを配分する役割も見えてきたような気がします。
とはいえ、生命の神秘を解き明かすことは、社会利用のためだけでなく、知への探求に基づく持続可能な共存のための生命への敬意なのかもしれません。