2022年09月24日
腸内細菌と人工甘味料

人工甘味料に関する懸念については、様々な議論がある一方で、「カロリー控えめ」というキーワードに象徴されるように、食べ過ぎなど過剰なカロリーの摂取に対する罪悪感から解放されるという理由も含め日常的に選択してしまう食品成分の一つです。
実際に、人工甘味料に対して非栄養性甘味料というような表現があることも含め、多くの種類が化学合成であるが故の、「消化吸収されにくいという性質」を持っていることも事実です。
この「消化吸収されにくい」という性質をどのように考えるかという事で大きな違いがあるのかと思います。
従来の栄養学では、消化吸収されにくい難消化性の成分については、食物繊維に分類されることが多いのが一般的でした。しかしながらこの食物繊維という分類に関しては、自然界に存在する成分についての総称であり、人工甘味料については食物繊維にも同じように甘味のあるオリゴ糖にも分類されていません。
その理由としては、化学合成によってつくられたことによって、そもそも自然界に存在しない組成のものとして考えられているためかと思います。
その、「そもそも自然界に存在しない・・・」ということが身体にとってどのような影響を及ぼしているのかという事が、人工甘味料に対する懸念の一つです。
腸は、生物の進化や発達の過程に於いて、最も重要な役割をしていると言われています。このことは、「脳が無い生き物はいても、腸が無い生き物はいない・・・。」と言われていることなどにも象徴されています。
その腸の進化の過程を考えた時に、生物としては数億年にわたる遺伝子を結集したものと考えれば、数十年の間に出来上がった新しい物質に対してはうまく対応できない・・・という考え方をしている研究者がいることも事実です。
また、「うまく対応出来ない・・・」という健康へのマイナスの影響についても、理由の一つとして腸内細菌が関わっていると考えている研究者も多いようです。
イスラエル、ワイツマン科学研究所の免疫学者エラン・エリナブ氏もその一人です。
エラン・エリナブ氏らのグループは、「人工甘味料の摂取は腸内細菌に影響を与え、一部の人に耐糖能異常を引き起こす可能性」について実験を行い、人工甘味料の摂取が肥満の兆候と血糖値の上昇につながるとともに、バクテロイデス・フラジリスと呼ばれる腸内の炎症に関わりのある細菌の数が、20倍に上昇したという報告もあります。
また、1,375人の中から、過去にゼロカロリーの甘味料を摂取したことのない120人に対して、一般的な非栄養性甘味料4種(サッカリン、スクラロース、アスパルテーム、ステビア)のうちいずれか1つを2週間摂取してもらうグループと甘味料を与えられていないグループとのそれぞれの血糖値の反応を比較した実験では、4種の甘味料のうちいずれかを摂取し始めて2週間以内に、腸内細菌叢に明確な変化が現れたとしています。
さらに、食後血糖値への影響としては、スクラロースとサッカリンの二つに関しては、血糖値がずっと高い状態にとどまってしまい、体が過剰なブドウ糖を適切に処理・貯蔵できていない「ブドウ糖不耐症」と呼ばれる状態になっていることが示唆された一方で、アスパルテームとステビアは、試験で摂取したレベルでは耐糖能に大きな影響は見られなかったという結果になりました。
これらの研究では、人間の腸内細菌叢が、非栄養性甘味料によって腸内細菌の構成、機能、それらが血中に代謝する物質の変化がある一方で、個人差が非常に大きいことも示唆されました。
このことからも、人工甘味料によって糖の代謝の混乱が全員ではないにせよ一部の人たちにおいて起きているという事を認識しておくことは必要なのかもしれません。
一方で、砂糖の過剰な消費は、肥満、糖尿病、その他の健康への影響に対して、依然として非常に大きな健康リスク要因であることも事実です。
近年の急激な加工食品の普及とともに広がった人工甘味料への移行と同時に、本来は抑制するはずであった生活習慣病は増加の一途を辿っています。
「カロリー控えめ」という表示は、砂糖などの糖類に対してカロリーが低いという事実はあるにしても、その「控えめ・・・」が、本来であれば抑制するはずであった生活習慣病を、逆に助長する可能性も否定できないということも知っておく必要があるのかもしれません。