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2022年11月04日

「遊び」と脳と非認知能力を考える

「遊び」と脳と非認知能力を考える


 2018年アメリカ小児科学会では「子どもに遊びを処方するように、すべての医師に推奨する」というような声明がなされました。

 皆様方もお感じの事と思いますが、近年遊びに関する様々な状況が変化してきています。例えば、外で遊ぶ時間・・・、そして、ゲーム機など電子デバイスのディスプレイにむかう時間・・・。

 日本国内でも、「開かれた学校」と言われてきた授業以外での学校の使われ方は、2001年に起きた大阪の小学校の事件を境に考え方が大きく変わってきました。
 世代によっては、放課後、校庭で友達と遊んでから帰る・・・という事は普通の事でしたし、寄り道をしながら虫取りなどをしながら帰る・・・。という事は、ごく普通の事であり、当たり前の事でした。

 しかしながら、現在、子どもたちは、放課後はある意味強制的に帰宅を促され、明確な理由なく学校に居続けることすら難しい・・・という現状になり、帰り路に、道端で遊びながらの下校に関しても、「近所の人たちの学校への通報」によって、子どもたちだけでなく、親までも注意される・・・。というのが現実です。

 心理学者のブライアン・サットンスミスは、「遊びの反対は仕事ではない、抑鬱である」と述べたといわれていますが、まさに現代の子どもたちを取り巻く環境を言い表しているようにも思えます。

 以前は、「遊びは、訓練である・・・」という概念が多くを占めていたという事もあり、「遊び」の重要性について、研究者たちが関心を寄せるということはあまりない状態が続いてきました。

 しかし、増加しつつある衝動的な事件の多さなどに関して、暴力的な衝動が抑えられない傾向が増大している可能性と「遊び」との関係性に関心を持ちはじめた研究者もいます。

 精神科医のスチュアート・ブラウンもその一人です。スチュアート・ブラウンは、テキサスの刑務所で殺人犯を対象に様々な調査を行いました。その結果、彼らの遊びの経歴が一般の人とは大きく異なることがわかったというのです。
 また、6,000人以上の調査によって、子ども時代の遊びは、人格形成に深刻な影響を与える可能性があり、楽観的な認識や、達成感、自己を認識するチカラは「遊び」を通して育まれるのでは・・・。という考え方も提唱しています。

 動物行動学者ゴードン・バーグハートによると、そもそも、遊びとは・・・
  
 ・行動に明確な理由がない
 ・何度も繰り返す
 ・時に大げさ
 ・自然発生的
 ・ストレスがない状態で行われる
 という五つの特徴があると言われています。

 これらの特徴は、ヒトを含む多くの生物に共通して言え、これらの特徴的行動パターンを同じ種だけでない、他の個体と一緒に行うのです。

 この「他の個体と一緒に行う・・・」というところがポイントです。

 「遊び」は、相手の表情を読み取ることで生まれると考えられています。共感から遊びが生まれるのか、遊びが共感を生むのか??については、まだ未解明のところは少なくないですが、少なくともこの二つには密接な関係があると言われ始めてきています。
 発達心理学者のキャシー・ハーシュパセックは、人は遊ぶときには、「他人が何をしたいかと、知ろうとする・・・」その中で、譲り合うことを学び、民主主義のルールの基盤を自然に身に着けていくとも述べています。

 ラットによる実験では、遊び相手がいない状況で育つことで、仲間と一緒に行動するというような社会的スキルの発達に遅れが見られ、意思決定や情動をつかさどる脳の前頭葉皮質の発達が未成熟であったという報告もされています。

 このように。遊びの有無が、脳に影響を与えるという可能性も示唆されています。

 と同時に、哺乳動物の構造は基本的には同じとされていますので、この結果は動物の世界だけ・・・、という事で片付けてしまっていい問題なのでしょうか。

 テネシー大学では、遊びと困難に挑戦する能力との関係も研究されています。この研究では、遊びの経験が足りないことが、1回の社会的敗北により、相手に対して簡単に逃げてしまい社交不安の状態に陥り易いという報告を、ハムスターを使っての実験を通じて行っています。

 遊びの時間の減少とともに、メンタルヘルスの問題は増大しているとされています。この二つのことは、別の出来事としてほっといてもいいのでしょうか?

 アレン・オブ・ハートウッド卿夫人 であるイギリスの造園家、福祉活動家のマージョリーアレンは、「心が折れるより、骨が折れたほうがまし、」という言葉を残したとされています。

 つまり、昔から「遊び」とメンタルヘルスとの関係について気付いていた人も多かったのだと思います。

 遊びは探索とも異なり、何かを調べるのが探索、その何かをつかって行動するのが遊びと考えられています。遊びは天性の資質であり、故に、遊びたいという衝動は、種の垣根をも超えてしまうとも言われています。

 ヒトが多くの生物を触れ合うことが出来るという事も、この「遊び」という天性の資質からなのかもしれません。

 近年の研究では、「危険な遊びのほうがより効果的」であるという事も解ってきたそうです。

 カナダの発達心理学者 マリアナ・ブルッソーニは、子どもにとってのリスクの役割は、危険を通してけがを予防したり、体の機能やどうすれば快適でいられるか、その中の仕組みまで担っていると言います。

 「怪我がないことは大切なことではあるが、少ないことによって失うことも考えなければならない。」というような考え方の人たちも増えつつあります。

 米国のフィラデルフィアでは、遊びの中にはスリルが大切という観点から「危ない遊び」というジャンルを体系化し、怪我をする可能性は、「世界を知り・・・自分のちからを試すチャンス」であり、恐怖心を制御する方法を学ぶ最も有効な手段であるという考え方のもと、「遊びやすい・・・」を「まちづくり」や「都市計画」に活かしていこうといような動きも出てきています。

 親自身が、外での遊びを知らない世代に入ってきた現在、「外は、危険がいっぱい・・・」という、親たちが抱いている社会への認識は実態とあっているのだろうか。「めったに起こらない危険と、こどもの成長にかかわる遊び・・・」とのバランス。

 「遊び」の効果としては、賢く、勇敢に、さらに優しくなるということが、動物の研究では明らかになっています。遊びは、脳を鍛えることにもつながり、生物の進化の本質を根差すものかもしれないとさえ言われ始めています。

 大人が手出しせず、自由に遊べる環境・・・を、多くの人たちで支えることが出来ると素敵ですよね。





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