2023年03月03日
便秘と認知機能の関係を考える

脳腸相関という言葉が、様々な場面で聞かれるようになり、脳の機能と腸を中心とした消化器官の状態との関係性についての関心が高まりつつあります。
以前から、鬱症状などメンタルヘルスに関わる症状があるかたの多くが、慢性的な便秘や下痢などの便性異常の症状に悩んでいることも解ってきており、メンタルヘルスと便性異常については、「どちらが原因となってるか・・・」という意味も含めて、ニワトリと卵の関係なのでは・・・とも言われ始めています。
また、そのような状況の中、メンタルと便性のどちらかを改善することで、もう片方も改善するという考え方もあるようで、メンタルヘルス向上のためのアプローチの一つとして、腸内環境を整えることで便性の改善を行うというような試みも始まっているようです。
慢性の便秘は、加齢による筋力の低下や腸内細菌叢の乱れなどの理由から、高齢になるにつれて多い症状とされています。また、腸内細菌叢の変化もアルツハイマー病患者に多いというような報告事例もあります。
そのような状況の中、東北大学加齢医学研究所の中瀬泰然准教授らのグループは、腸の不調によって生じる便秘と認知機能の関係に着目し、既にアルツハイマー病または軽度認知障害(MCI)と診断されている患者を対象に、便秘があるグループと、便秘ではないグループでの、認知機能の低下速度についての比較研究を行いました。
アルツハイマー病の認知機能障害の評価手法であるADAS-Cogでは、両グループともに時間の経過によってのスコアの上昇がありましたが、上昇の速度については有意な差が認められたという事です。
結果的に、便秘がないグループの0.8592ポイントに対して、便秘があるグループは2.3544ポイントと、認知機能の低下に対する速度が2.7倍にもなったと言います。
また、MRI画像による、海馬の体積と大脳深部の白質病変の体積についても、海馬に於ける年間の減少量には差は見られませんでしたが、大脳深部の白質病変の体積については、増大の速度について両者の間に有意な差が認められました。
海馬の体積の縮小と大脳深部の白質病変の増大は、認知機能低下リスクの上昇を意味し、大脳深部の白質病変の年間変化量は、便秘ありのグループが24.48mL、便秘なしのグループが14.83mLで、便秘ありのグループでは、1.65倍の速度で進行しているという結果になっています。
今回の研究では、認知機能低下に対するファクターの一部が便秘の有無に対して、有意な相関関係があるということを示唆していますが、そのメカニズムに対してはまだまだ未知の部分が多いことも事実です。
しかしながら、脳と腸を含めた消化器官とそこに共生する微生物との密接なかかわりに関する新たな1ページにはなっているのではないかと思います。
お腹の健康が、超高齢化社会における社会的課題の一助になるのであれば、この分野の研究に更なる発展を期待をしたいものです。
Posted by toyohiko at 15:37│Comments(0)
│身体のしくみ