2023年03月24日
腸内細菌から考える生物多様性

動物の腸内細菌に関する研究は、ヒトや家畜、実験動物に限定されるような状況で行われてきたと言われています。その理由として、産業的な価値を優先してきたためとも言われてきましたが、SDGsの考え方の普及とともにその様子も変化してきたようです。
腸内細菌と宿主との関係ついては、ヒトを中心に様々なことが解ってきています。
例えば、経口摂取した薬が、どのような腸内細菌を持っているかによって効果が異なる事や、腸内細菌の代謝物が脳にも影響を与え、個人の性格にも影響を与えている可能性まで・・・様々です。
そのような状況の中、腸内細菌は「身体の中の別の存在・・・」ではなく「器官の一つ・・・」であるという考え方も定着してきつつあるとも言われています。
その腸内細菌については、種固有のものであったり、さらに個体単位においても固有のものであると言われています。このように固有の腸内細菌と共生していることは、その種の共生腸内細菌として、長い年月をかけて共進化してきたから・・・と考えられています。
生物多様性の視点から考えると、希少生物の保全は重要な課題となっています。その「保全」についても、人工的な飼育下での種の保存はあくまでも、途中経過であり、野生下での種の保存と安定を目指していく事が求められています。
中部大学実験動物教育研究センター講師の土田さやか氏によれば、動物の腸内細菌は環境適応のために野生下と飼育下では異なる細菌叢をもつようになる事がわかってきたとも言われており、野生下での希少動物の保全には腸内細菌の状態を知ることが欠かせないことになりつつあるようです。
例えば、野生のニホンライチョウは、高山植物を主食としています。この高山植物には難消化性の食物繊維やタンニンなどの反栄養物質だけでなく、毒素も含まれていることが解っています。このような物質を野生のニホンライチョウ自身の腸内細菌によって、解毒分解したり、難消化性の物質を効率よく消化吸収しています。
このニホンライチョウを保護などの目的で、飼育下での生育環境にすると、毒素を含まない小松菜などの野菜や、草食動物用のペレットなどを主食にしてしまう影響で、解毒分解に関わる腸内細菌が失われてしまうことも解ってきたというのです。
更に、飼育下の個体は、感性症による死亡率が高かったり、体重増加による脚の障がいにつながるなど、食べ物の変化による、飼育型腸内細菌の影響の広がりもあるようです。
更に、レッドリストのVU種(危急種)に指定されているような種に対しても、飼育下での食生活の変化によって、口腔疾患や消化器疾患があるような事例もあり、食事と腸内細菌改善という二つのアプローチによって、希少動物の保全に対する試みが進んでいます。
希少動物の保全については、「野生個体群の創出」という視点は欠かせないところになります。
現に、地球規模で存在が確認されている野生生物は、2,131,499種の内、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストによれば147,517種を絶滅危機として評価している現状があります。
その現状を、維持・回復していくためにも野生生活を可能にする腸内細菌の存在は、欠かせないモノの一つなのかもしれません。
ヒトも含めたあらゆる生物の腸内細菌が、生物の多様性を支える重要や要素であるとともに、食や行動(生活)様式が、その構成に大きな関わりがあることを理解しておく必要があるのだと思います。