2023年04月14日
運動と腸内細菌との関係を考える

いま、運動と腸内細菌という一見つながりが無さそうな二つの関係性に、注目が集まりつつあります。そして、ボストンマラソンに参加した選手の腸内にVeillonella属類の細菌が増えているという研究結果が、2019年に学術誌Nature Medicineで紹介されたこともその一つと言えると思います。
この研究では、Veillonella属の細菌に疲労に関係する代謝物である乳酸の消費に必要な遺伝子が備わっていることが明らかになり、運動と腸内細菌との関係性のさらなる解明の大きな一歩になっています。
そもそも、運動不足というキーワードは、健康の維持増進に大きな関わりがあることは多くの方が理解しているかと思いますが、座りっぱなしのライフスタイルが、世界中の死亡原因の第4位になっているという研究報告があるなど、現実的な健康リスクに繋がっているにも関わらず、「運動する習慣」につながらない方が多いことも事実です。
また、「運動」に対するモチベーションが個々によって大きな違いがあり、その要因については、「単なる、やる気・・・」という事だけではなく、複雑な要素によっての結果であると考えられていますが、よくわかっていないという状況のようです。
その複雑な要素の一つとして考えられているのが、腸内細菌です。
ペンシルバニア大学医学部微生物学助教授クリストフ・タイス博士らの研究によれば、特定の腸内細菌が産生する脂肪酸アミドが、腸壁の感覚神経を刺激し、ドーパミンを放出することで脳の報酬系に作用し、運動意欲の向上に関係することが解りつつあるというのです。
さらに、その微生物についても、ユウバクテリウム・レクターレ(Eubacterium rectale)とコプロコッカス・ユウタクタス(Coprococcus eutactus)の2つの種類の細菌がその働きをしている可能性が明らかになってきています。
その研究チームでは、無菌マウスと正常マウスを使いドーパミンレベルと運動能力を比較するなど、さらなるメカニズムの解明を続けているようです。
また、米スタンフォード大学の計算微生物学者マシュー・レイモンド・オルム氏は、これらの研究結果をもとにビックデータの解析をした結果、マウスの運動に関する成績に対しての影響について遺伝子は極わずかなもので、腸内細菌の違いの方が重要であることがわかったとも述べています。
どうやら・・「運動不足は、自分自身の弱い意志のせい・・・」だけではなく、「腸内細菌のせい・・・」であったとすれば、「育菌」と呼ばれるような、腸内細菌を中心に考える食生活の重要性は、アスリートを目指す人たちにのみならず、あらゆる世代にとってますます高まってくるのかもしれません。