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2023年04月28日

食欲と脳と腸内細菌との関係を考える

食欲と脳と腸内細菌との関係を考える


 食欲との戦いは、先進国と呼ばれる多くの国の人々にとって、ある意味で永遠のテーマとも言われています。その理由の一つは、食欲は生命の活力そのものである一方、人類の長い歴史の中で飢餓状態に備えるためのメカニズムによって、食欲そのものを抑制することが非常に難しいということに起因しているとも言われています。

 食欲は、報酬、快感、嗜好などの脳の報酬系と言われる刺激と関係していることから、側坐核の神経活動がそのメカニズムに対して大きな役割をしていると考えられています。

 側坐核は、脳の中心部に位置する神経核の一つで、報酬系に関与する重要な領域の一つです。側坐核は、報酬を受け取る中枢である視床下部と、報酬を制御する中枢である辺縁系との間で相互作用を行い、報酬系の調節を担っています。

また、報酬を予測する際に重要な役割を果たしており、報酬が予測通りに得られなかった場合に、失望や不快感を引き起こすことが知られています。そのため、報酬系における不適切な信号伝達に関与し、報酬系の正常な機能を維持するために重要な役割を果たしています。

また、側坐核は、ストレス反応やうつ病などの精神疾患にも関連し、過剰なストレスが脳に与える悪影響の一つとして、側坐核の活性化が挙げられます。側坐核の過剰な活性化は、うつ病や不安障害の発症につながる可能性も指摘されています。

このように、側坐核は報酬系の調節に関与する重要な脳領域であり、報酬の予測やストレス反応など、様々な脳機能に関連しています。

 そのような中、ミシガン大学薬理学のCurry L. Ferreira博士らの研究チームが、脳の神経回路と食欲調節の関係に関する研究によって、脳の中にある特定の神経細胞集団が、食欲を抑制する働きを持つことを発見したという報告が注目を集めています。

 その報告では、側坐核の神経細胞がGABAを十分に分泌できることで、食欲の抑制につながるというもので、この発見は肥満や食欲不振などの食欲障害の治療法の開発につながる可能性があります。

 また、セロトニンやトリプトファン代謝の変化によって、心血管リスクの軽減につながったり、脂質代謝の改善や食欲の抑制につながるというような研究報告もあるようです。

 この研究では、木の実や種子などのオレイン酸、リノール酸などの不飽和脂肪酸が豊富に含まれている食品を間食時に他の糖質の多い食品を摂取した場合と比較した場合、血中や糞便中のセロトニン濃度が優位に上昇し、腸内細菌叢の変化にもつながっていると報告しています。

 この研究に関わった、UCLA医学部の栄養学研究センターのジーピン・ヤン博士は、不飽和脂肪酸を多く含んだ食品を間食に選ぶことによって腸内細菌叢の変化につながり、その変化が、トリプトファンの代謝変化やセロトニンの増加につながっていると可能性に言及しています。

 トリプトファンは、セロトニンを合成するための大切な原料であることは、既にご存知の方もおられると思いますが、それと同時にセロトニンは、睡眠ホルモンと言われるメラトニンを合成するための原料でもあります。

 さらに、脳腸相関というようなメカニズムについても、腸からの神経伝達の多くは脳の報酬系に関係しているという現状の知見からしても、食欲と報酬系の調整を担っている側坐核との関係性・・・更には、食事による腸内細菌叢の改善が、「食欲」を上手に付き合っていく手段のひとつなのかもしれません。






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Posted by toyohiko at 09:14│Comments(0)身体のしくみ
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